小さな扉

□神歌の楔
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神の言葉を用いた歌が全てを動かすこの世界では詩と旋律で生活を支えている。

貪欲な人間は神聖な歌を利用し様々な欲望を叶えていった。人は地を制したが天を制することだけはできなかった。

できないことが見つかると人は神という完全な存在を描き始めた。天候を自在に操ることができる者、四季が巡ることから四神を崇め奉ことになった。


熱心に信仰して数万年後のある日、神は自分の妻を地上に送った。

春のように温かく万人に好かれる女。夏のように活発で生き生きとした女。秋のように多才な才能に富んでいた女。冬のようにもの静かで思慮深い女。

性格は違うが誰もが美しいと思っていた女達だった。そして誰一人男と馴れ合うことなく懐妊したのだ。

彼女達は出産を迎えてすぐ亡くなった。生まれてきた子は全て女児、その瞳は各々の季節の色を思わす宝石のようだったと言われている。

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子供達の歌はそれぞれの季節を呼び込む力があった。彼女達は並みの人より長い人生を送り、同時に亡くなったと記されている。


だが、この奇跡は一度だけではない。また美しい純潔の四人の乙女が子を孕み、その娘が季節の歌を歌うという同じ歴史が幾度も続いたのだ。


人々が歌を忘れてしまっても彼女達は歌い続けた。あらゆる保護を受けられる立場に置かれ、神を信じる者によって大切に守られてきた。

しかし彼女達にとってこの輪廻の歯車は呪縛でしかない、そう気がついたのは自分が関わるようになってからだ。







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