小さな扉
□深い深い眠りの中で……。
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本編.目覚め
太陽の光が滞るほど緑が茂っている森、こういう場所を樹海と言うのだろうか…。
あの日の俺は何か目的を持ってこの深い森の奥に進んでいた。
何日歩き続けたかわからない、今太陽が登っているのかすらわからない。普通だったら後退していただろうが、その時の俺は違かった。
しかしそんな時間は長く続く筈はない、もう頭の中では何も考えられなくなっていた。
『朝よ起きて、――。』
鈴の音のような和かな声が響いた。彼女が読んでいる。朝が来たのだ。
条件反射で起きると漆黒の瞳が俺の顔を覗き込んでいた。
『姉さん。』
彼女は俺の姉らしい、彼女がそう教えてくれたから俺は彼女をこう呼んでいる。
真珠のような美しい肌に、長い濡れたような黒髪の巻き髪。整った顔はとても美しく、見慣れた筈の俺ですらあまりの美貌に息をのんでしまう。
『また怖い顔をしてるわ。ここにくる前の夢?』
『うん…でも平気だ。』