小さな扉
□神歌の楔
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「冬姫様、お歌の練習は?」
「練習したもん。先生にフレーと遊んで来なさいって言われたのよ。」
少女は頬を膨らませて睨付けた。毎日繰り返す会話に苛立ちが隠せないのだろう、ここ最近は断っていたため拗ねているようだ。
俺は彼女の言葉を聞いて肩を落とす、ついに自分も敵になったことに悲しみを覚えたからだ。この遊びには姫の美声を案じることだけではなく、俺の大神官への道を阻む効果がある。
四神の娘はしきたりに従い、五歳の誕生日から各地に旅をして季節を届けることになる。つまり片腕を選定するこの時期に姫のお気に入りが資格を得ることを恐れているのだ。
ただでさえ十に満たない子供が大神官の試験を受ける事実を妬む者がいるのにこのような時期と重なったため、俺に向けられる視線は冷たい。
しかし幼いとはいえ彼女は絶対的な存在で、彼女の一言で多くの人を動かすことができる。俺は周りの目を案じて渋々遊ぶことにした。
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