小さな扉
□拍手2010
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◇三日月を船にして
遠くへ旅立った貴方へ
いかがお過ごしでしょうか?私は相変わらず元気にやっております。
こちらは順調に四季が巡り、貴方が旅立ってから何度目かわからない温かな季節が終わろうとしています。ということは、貴方は今春を感じているのでしょうか?
国は大きな損害を受けましたが復興が進み、やっと元の景色に戻りました。水浴場の汚れもなくなり、澄みわたる神聖な水が湧き出るようになりました。もうすぐ夏なのでそろそろ水の儀式をしなければなりませんね。
季節が見せてくれる風景以外に変化を感じることは、貴方の存在の有無と老いが進んだことくらいでしょう。この頃貴方と過ごした時間を思い起こしては、とても懐かしく悲しい気持ちになります。
こんど儀式が終わった後に聖水を届けるので、待っていてください。
PS.
最近皆が貴方のことを忘れるように説得して来るんです。父様はしつこくお見合いを勧めてくるので正直うんざりしています。
どんなに言われようと私は貴方との思い出や約束を一生忘れるつもりはありません。貴方にはすぐ近くにいるのですから。
……本当はわかっています。親や友達が心から私のことを心配してくれているから、言葉をかけてくれることを。
手紙や贈り物を渡すことも、以前のように側にいることもできるのに、伝えた想いの返事は二度と返ってこないことも。
遠くへ旅立った貴方へ
あの日、貴方は
遥か天へ羽ばたきました
本当に意地悪な人
中途半端に
優しくするから
(肉体を残して行くから)
私は貴方の温もりを
忘れられない
国を守るための戦で恋人亡くした女性が、現実を受け止められずに手紙を書いたという設定です。
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