主食
□雨の日
1ページ/1ページ
緩く結んで。きつく結べばお互いをつらくするだけ。
だけど離れるなんて考えられない。だから結んでいてほしい。緩く、緩く。
「外、雨ですね」
「えぇ。雨の日は体が怠くて適いません」
嘘です。本当は雨音が全ての音を包んで消してしまうのが苦手なだけ。
雨が降ると自然と皆家に籠もる。外からの音も遮断されてこの家には私とヘイハチさんの二人きり。
私はこの空間が嫌でたまらない。
ヘイハチさんのことが嫌いだから。
なんてそんなわけじゃない。
ただ自分を形作るものの大半があなたで占められてしまうことを恐れているだけ。
そうなってしまえばあなたがいなくなったとき私が保たれなくなって崩れてしまうもの。
なのにこんな日にはあなたの存在しか強く感じない。
「具合悪そうですね。けれどそこまで動かないでいると布団と一体化してしまいそうです」
「そうなれたら本望です。」
「そんなに素っ気ないと拗ねますよ?」
「構いません」
心配してくれているのはわかる。それを突き放したことで痛む心も感じる。
それでもこれ以上近付けない。
なのに躊躇なくあなたは私の手を触る。唇に触れる。体を重ねる。
全ての音が私とあなたで奏でられる。
二人きりの世界はこんなにも甘くて心地よい。だから余計に、叶えられないのなら永遠なんて感じさせないでほしいと願う。
――――息が吐けない。
『今のことだけ考えていればいいんです。その後のことはそのときに考えればいい』
いつかあなたが言った言葉が頭の中で揺れる。
先を危惧するのも事実。だけど目の前にある幸せに溺れたくなるのも事実。
だったら
あなたがいなくなった後の世界からは私も消えてしまえばいい。
そう思って今日もわかりきった後悔を目蓋を瞑ることで消した。
絡んで絡まって。もう解けないほどに強く結ばれてしまったのなら全て投げてしまえ。
.