短編集

□sweets rabbit.2
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トイレへと向かう途中、自然と吐き気が込み上げてきた。

個室の方へ駆け込むと、嗚咽とともに、出すつもりはなかった先程口に含んだモノが、形状の成していない、液体として出てきた。

出すものは全部出した気がする。

口からも、目からも。

自分以外、誰もいない手洗い所には、水の流れる音だけが響く。

顔を洗ってスッキリしようと、顔に勢いよく水をかける。
冷たくて、気持ちがよかった。

ふと自分の姿の映った鏡へ目をやると、目が赤く充血していた。
これでは、泣いたこともすぐアイツにばれるだろう。

(……まあ、いい。)


早速アイツのもとへと戻ると、時間は結構経ったというのに、アイツまだ甘いモノを頬張っていた。

今はピンクのマカロンではなく、緑色だ。
口元には何故か生クリームが付いている。
そういえば、先程は三つほど並んでいたショートケーキがきれいになくなっていた。

「あっおかえりー」
「……ん」
「わ、目ぇ赤い」

自分が泣いたということは、大体察しがつくだろう。
でもそこから、どうして泣いたのか、何も探ることなくアイツはただ一言
「ウサギみたいだね。可愛い」
と、笑いながら言った。

自分のことを気遣ってくれているのかはわからないが、こんなふうに優しく接してくれる人がいる。
それなのにも関わらず、あの存在が、阻む。

「……なあ、」
「なに?」

まだ口にクリームが付いている。

「ウサギは寂しいと死ぬ」

コイツの口元に付いているクリームを指先で掬い取る。

「んー知ってるよ」
「だから俺を慰めろ」

この瞬間、モノを口へ運んでいたヤツの動きが止まった。
目は大きく見開き、視線がこちらへじっと注がれるのがわかる。

「……りょーかい」

少しの間をおいて発せられたのは、自分を受け入れてくれる、肯定の言葉。

眼光は、まるで獲物を仕留める狼のようにギラリと光った。
顎を掴まれ、ぐいっと顔を引き寄せられる。

すごく甘い匂いがする。
ふと脳裏にちらつくあれ。
忘れたい、忘れたい。

なあ親父、アンタはいつになったら、どうやったら頭のなかから消えてくれるんだ。


「……、ん、っふ」

コイツの口の中は、砂糖でできてるんじゃないかというぐらいに甘かった。

頭がおかしくなりそうだ。

「ん……っ、は」
「ふ、かわいい」
「っ、ん」


もういっそのこと、その甘さで犯してくれ。







→あとがき
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