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□初体験
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この日が来るのを待ってたんだ。


両思いが発覚して1週間

初めて『恋人』としてムッツリーニを家に招く事になった。

学校を出るまではあんなに意気込んでたんだけどなぁ…



帰り道はろくな話題もふれずに結局家に着くまでゲームの話ばかりしてしまって、なんだかんだで友達だった時と何も変わらない。

もうちょっとロマンチックな話題に持っていきたかったけど…

経験値ゼロだから仕方ないかぁ。



「あ、あの、お茶でも飲むかい!?」

「…………お構いなく」

今、僕の部屋に二人っきり。浮足立つ気持ちが身体から溢れ出しそう。

「じ、じゃあオヤツでも…」

オヤツなんてあったかな…何かコンビニで買ってくるとか…

あれ、お金あったかな…どうしようどうしようどうし…


「…………明久」

座布団に正座した康太が自分の正面の床をポンポンと叩く。

え、何?座れって事?


「よっこいしょーいち…っと」

「…………オヤジ臭い」

ひどい。
一応照れ隠しのつもりだったんだけどな。



「…………したかったんじゃないの?」

「え?」

シたいって…いや、確かにシたいとは思ってたけど…

えぇ!僕、キミにそんなな事言ったっけ!?
は、破廉恥だ…!


「…………だから…手…繋いだりとか」


目の前の友人が恥ずかしそうに小声でつぶやく。
破廉恥なのは僕だ。ごめんよムッツリーニ…。


そういや告白したその日、手を繋いで下校しようとしてグーパンチをお見舞いされた事があった。


「え…手?あ、あぁそうだ!手、繋ぎたい!」


うれしい、うれしい!
1週間も前の事なのに覚えててくれたんだ…!


サッと右手を差し出し、康太の右手をガッシリと掴む。

ガッシリと…

あれ、なんか変じゃないかコレ。


総理大臣と大統領のようにガッシリと交わした握手に汗が滲む。


「…………明久…」

「ごめん、つい…」


年頃の男子が二人っきりで正座したまま握手を交わす光景は、当事者から見てもなかなかシュールだ。

怒ったかな…?呆れた…?


―クスッ

あれ?


「…………明久、ほんとバカすぎ…ックク」


ムッツリーニの稀に見る笑顔に何だか和やかムードの僕の部屋。


「あ、…はは…だって緊張しちゃってさ」


可愛い、可愛い。
こんな顔、これからは僕にしか見せないでくれるとありがたいなぁ…。


「ねぇムッ…康太」
  
「…………無理に名前で呼ばなくても…」

「ダメ。それはダメ。」

「…………別に何でも良いのに…」


口ではそう言うけど、康太が少し嬉しそうに見えるのは僕の思い上がりかな。

そんな顔されたら、なんか自惚れちゃうよ。


「康太」

「…………なに」

「恋人っぽい事、しない?」

「…………例えば?」

「もー…わかってる癖にぃ。保体のトップが何言ってるのさ」

「…………キス…とか?」

ぷっ、可愛い。キスだって。
キスだけで我慢できるかなぁ…


「していい?」

「…………すれば?」


了解を頂いたので、膝立ちになって康太の方に近づいた。

ゆっくり顔を近づける間も康太は僕から視線を外さない。

げんこつ1個分の距離で見る康太の睫毛は恐ろしく長くて、男子高生だって事を忘れそうになる。


あと5cm

4、

3、

康太が目を閉じる。

2、

1、


ふに

……

うわ…やわらかい…

……

……

………っ、酸素!


「…っぷは!」

「…………っ、は」


あと5cmって辺りから息を止めてた僕の未熟な肺は、緊張のせいかあっさりと限界を迎えた。


「は、はぁ、死ぬかと思った!こういう時、息って止めるもの!?」

「…………そんなの知らない!」

「保体の知識は!?」

「…………キスの時に息をどうするかなんて参考資料、見たこと無い!」

「え〜!?そんなぁ!」


またげんこつの距離で目が合う。


いつもの僕ら。

甘ったるい恋人同士の雰囲気なんて微塵もない、初めてのキスが終わった。

貴重な初ちゅーは全然ロマンチックじゃなかったけど、僕たちは今始まったばかりだ。

いつか、ヨすぎて腰が砕けちゃうようなキスができるようになるさ。


「次は息、して良いかな…」

「…………好きにすれば」


康太の頬にそっと手を添え、再び唇を寄せた。





fin…?

 

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