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□不意打ち
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入店して2ヶ月の頃。


俺は下位のザコホストから一刻も早く成り上がりたくて焦っていた。

上位に上がるためなら何でもやった。


卑怯者だ色恋だと影で散々言われたが、そんな評判はどうでも良い。

『1番金を稼いだ奴が1番偉い』

単純明快。
卑怯だろうが関係ない。
なんともわかりやすいシステムだ。



―――


「恭二君、売り上げも重要だけど、そろそろお客様の評判なんかにも気を使ってみてはくれないか?」


朝礼の後バックに呼び出されて久保マネージャーからのお説教。

ったく…コイツもよく毎日毎日同じような台詞ばかり吐けるもんだ。


「あ?何言ってんだ。入店して3ヶ月で結果見せろって言ったのはアンタだろ?」

「しかしだねぇ…モラルやこの世界のルールはわきまえたまえ。君の卓は見ていてハラハラするよ…そうだね、例えば――」


久保みたいな几帳面で神経質な奴は夜の世界の人間にはあまりいないタイプだと言える。

品のある雰囲気がこの店に似合っている、と評判は良いらしいが、ホストなんてヤクザな商売に品も何も無いだろう。

あーイライラする…
腕組をして眼鏡をクイと上げる仕草が妙にカンに障る。

いや…

久保が次に何を言うか、頭の隅で予想がついていたからかもしれない。


「そう、例えば………

1を見習ってみる…とかさ」


そら来た。


「ハァ…出た出た。 まーた久保サンお得意の『明久クン』かよ」

「恭二君!僕は真面目に話しているんだよ!明久君は君よりずっとクリアな営業で―――」


クリアな営業ってなんだよ…


「俺が枕やってるって言いたいのかよ」

「いや、決め付けてるわけじゃないさ!ただ、噂が…ね」


俺は色恋営業はやっても枕営業だけはやった事は無い。
…誰にも信じてもらえないだろうがな。


「枕やってるって証拠でもあんのかよ!明久みたいにだ?俺には俺のやり方があるんだ!口出しすんじゃねえ!!!」


怒りに任せてコンクリート打ちっぱなしのバックヤードの壁を殴り、ドアを蹴飛ばしてフロアに戻ろうとドカドカと足を進める。

ドアを勢いよく閉めると、そこにはビール樽を運ぶ小さなウェイターが黙々と作業をしていた。
チッ、聞かれたか…


「何見てんだよテメェ」

「…………別に」

「今見てただろうが!」

「…………お前なんか見てない。自意識過剰」


ウェイターの分際でホスト様に対して「お前なんか」だと?ふざけてやがる。

 
 
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