連載
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「…………あ…あ…明久…?」
手を。離して欲しい。
お前に触れられた両頬が熱くて…このままじゃ本当に熱が出そうだ。
「…………ひ…」
目の前で餌をちらつかせられて、持て余した性欲が欲望のままに暴れだしそうになるのを必死で抑える。
こんな気持ちにさせるお前は…叶いもしない夢を見せるだけ見せるお前は…まるで悪魔だ。
「…………姫路達が、変な目で見てる」
悪魔退散の、魔法の呪文。
はっ、と我に返ったように明久は俺から手を離し、その両手を姫路達に振ってわたわたしている。
「え…ぅわっ!!!あの…違うからね?ボク達は姫路さんや美波が思ってるような関係じゃ…」
「ずいぶん長い間見つめあっちゃって、アキは噂通り、男子の方に興味が…(ボキボキ)」
「明久君ったら、いくら土屋君の女装姿が愛らしかったからって…!」
「誤解だって!!とっ、とりあえず美波は拳を納めて!!あの…姫路さん、目が――」
さっき明久と俺の間に漂った妙な空気をかき消すように明久がいつもの声で大騒ぎする。
そんな大声で否定しなくても、姫路も、島田も、誰も本気でそんな事考えちゃいないのに。
『姫路さんや美波が思ってるような関係じゃない』
嗚呼、
ぐさりと突き刺さる。
何も『上げてから落とす』なんて高度なテクニックを使わなくても、俺は十分身の程をわきまえてるつもりなのに。
ぎゃいぎゃいと喚く3人組、秀吉は横目でため息、須川達は今にも飛びかかりそうな殺気を放って明久を睨んでいる。
何も変わらない、Fクラスの日常だ。
微笑ましい空気から逃げるように自分の席に戻り、午後の授業の準備をする。
あまり使われていない綺麗なままの教科書とノートを広げ、あとは建てつけの悪い教室のドアが開くのを待つばかりだ。
何事も無かったかのように。
ぱたっ、ぱたたっ
開いた真っ白なノートに、3滴の滴。
(……あ、れ)
自分の目から水が零れたのだ、と認識するより早く、何者かに頭をくしゃりと撫でられ、耳元で何事か囁かれた。
頭の上に置かれた手が涙の染み込んだノートをぱたりと閉じると、今度は腕を掴んで俺を立ち上がらせる。
浅黒くて、男らしくて、あったかい、大きな手だった。