カラ松恋愛事変

□女神?天使?
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「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう。」

先ほど話しかけてくれた女性からほかほかの肉まんを受け取る。
隣の彼女は美味しいとつぶやきながら食べているが、カラ松は肉まんを見つめながら、とても困惑していた。

俺が女性と二人で肩を並べて肉まんを食べている?

カラ松にとって初めての経験で、自分がこの場をどう対処すればいいのか分からないのだ。

「食べないんですか?」

ふいに話しかけられて、心臓がどきりと鼓動する。
女性の方を振り向くと、彼女も俺の方を見ていて、自然と目が合う形になる。

「傷に、痛みますか?」
「ああ、いや、見た目ほどそんなに痛いわけではないんだ。」

彼女の視線を感じながら、手に持つ肉まんを口に入れる。
その肉まんはとても暖かくて、自分の顔が熱を持っているのは肉まんのせいだと、そう思った。

「美味しい。」
「美味しいですね。」

二人で肩を並べて肉まんを食べる。
一人ではないこの状況は、俺から寂しさを取り除いてくれたような気がした。

彼女のほうをちらりと見ると、やはりその姿は女の子そのもので。
何故俺に話しかけてくれたのだろう、まさか好意を持たれているのか、いつもは恥ずかしくて話しかけられなかったが、今日は勇気を出して話しかけてくれたのだろうか。
なんて愛らしいんだカラ松ガール!

そんな想像を頭の中で繰り返しては、だらしなくなっていく口元を、カラ松は食べている肉まんで隠す。

何か話しかけようか。
でも何を話したらいいのだろうか。
こういう時、トド松なら、上手く女の子の気持ちを汲み取って会話が出来ているのだろうな。
チョロ松なら、おそ松兄さんなら、十四松なら、一松なら、

そう自分の兄弟達に想いを馳せて、またカラ松は気分を沈ませていった。

「…その傷、どうかしたんですか?」
「え…」
「あ、答えにくいなら、答えなくても大丈夫…ですけど…」

その傷、というのは自分の体に巻かれた痛々しい包帯のことを指しているのだろう。
頭に触れてみると、縫われた場所はやはり、痛い。とても痛かった。

「実はこの前、誘拐されてな。」
「ゆ、誘拐…?」
「ああ、いやでも、誘拐といっても、知り合いが仕向けたやつで、そこまで危険性が高いものだったわけではないんだが」

こんな説明ではカラ松ガールを困惑させてしまうだけだ。
そうなのだが、上手く言葉を見つけることができない。

「兄弟達に助けを求めたんだが…」
「だが…?」

電話越しから聞こえてくる、兄弟達の楽しそうな声。
その中に、自分はいなかった。
海の中で吊るされ縛られて痛くて、海の水は冷たくて寒くて、バズーカで顔にぶつけられたおでんは暑くて、
一人で、寂しくて、怖くて、それでも、

兄弟達は俺を助けに来ることはなかった。
終いには…

「誰も助けにきてくれなかった…」

梨に負け…花瓶や石臼など色々投げられて…心も体も全部痛かった。

何も言わずに手渡されるハンカチ。
不思議に思ってそれを受け取り、彼女を見ると、手渡されたハンカチを再度自分の手にとって、目元を拭われた。
自分は、知らないうちに涙を流していた。
堰を切ったように溢れ出す涙は止まらなくて、もう20も過ぎた成人男性が、子供のように泣いた。
彼女は何も言わずに、ただただ、その涙を拭ってくれた。
落ち着くまで、ずっと、俺のそばにいてくれた。
涙で滲んでいたが、彼女の顔は慈悲深く微笑んでいて、まるで女神のようだった。



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