カラ松恋愛事変

□衝撃的な出会い
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「わー」
「……。」
「わーーー」
「…………あめ、食べますか?」
「え?!いいの?あめちゃんもらっていいの?!やったー!!」

じぃ…と見つめられるつぶらな瞳に耐え兼ねて、私は鞄から出した飴を一つ、目の前に立つその人に渡す。
すると、その人は飛ぶ勢いで、形容ではなく本当に飛んでいってしまうような勢いで、とても喜んでくれた。
萌え袖を通り越してでろんでろんに伸びた袖を振り回して、彼は私の前でふわりふわりと回る。
そんな目の前の成人男性を、何故か私はとても可愛いと思ってしまった。

「十四松、よかったな。時雨にお礼を言うんだぞ」
「時雨?」
「ああ、俺たちの目の前にいる、可愛らしい女神のことだぜ。」

十四松くんの頭を撫でながら、カラ松くんが髪をなびかせかっこつけながらそう言う。
カラ松くんのかっこつける姿は最近では見慣れたものだが、私のことを女神とかその他諸々形容するのはやめて欲しいなぁ、とは思っている。
でもそんなこといったらカラ松くんはすぐに傷ついて涙目になるからあんまり言わないけど。

「え?!女神様なの?!すっげぇ!握手しとこ!」

突然手を握られて、ぶんぶんとすごい勢いで腕を振られる。
あまりの力強さに頭も一緒に振られてしまい少し視界がちかちかしてきた。

顔は似てるが全然違う。
突然私たちの前に現れたこの男の人は、カラ松くんの弟、十四松くんと言うらしい。




私たちはいつものように、ベンチに座って話をしていた。
カラ松くんと出会った当初は月に二度ほど会って話すぐらいだったが、最近では習慣的に、私たちが出会った場所、赤塚橋近くのベンチで話すようになっていた。

毎回するのはたわいない話、
でも会話が途切れることはない。
すごく自然体でいられて、とても楽しい時間を毎回過ごしていた。

そんな私たちの前に、今日は十四松君が現れた。
突然私の顔の目前に現れたから、すごくびっくりしたけど。
カラ松くんが、十四松!と名前を呼んでいたし、前から兄弟の話は色々カラ松くんから聞いていたので、目の前の彼を見て、
あ、この人が十四松君なんだなぁと妙に納得している自分がいた。

「こんなところで何をしてたんだ、十四松。」
「えーとえーとね、やきう!」
「そうだったのか、ここらへんで野球が出来そうなところはあるのか?」
「あるよー!あっち!」

あっち!と袖を指す方向は、ここからは見えないが、子供達が遊べるように設置された芝生やサッカコートが設置された大きめな広場があったはずだ。
バスケットコートも設置されていたかもしれない、あまり私は利用しないのでうろ覚えなのだが。
十四松君はそこで遊んでいたのかーと呆けていると、また十四松君の顔が至近距離に迫ってくる。

「女神様もやる?」
「女神様じゃないですよ、名前は時雨です。初めまして、十四松君。」
「よろしく!俺十四松!時雨めちゃくちゃ可愛いね!」

そういうと、十四松君は私の両頬を袖で隠れて見えない両手で包む。
突然の言動と行動に私は膠着してしまって、視界の端でカラ松くんがおろおろと焦っている様子が見えた。
そんな私たちの様子はつゆ知らず、十四松君はくすくすと悪戯に笑っていた。
十四松君は私の頬に添えていた手をどけると、やきうー!と突然叫び始めた。
今までどこに隠していたのか謎なバットを両手に持って、素振りを始める。
そんな十四松君のそばを「危ないぞ」なんて声をかけながらカラ松くんがあわあわしている。

「カラ松兄さん!やきうーしよ!」
「いや、今は……」

ちらりとカラ松くんの視線がこちらに向く。

あ、私のことを気にしてるのか。
十四松君を見ると、しょんぼりとしてしまっていて、口は笑ってるのに、眉尻は下がってて、袖もだらんと下に向けられ地面についてしまっている。
なんだか申し訳ない、し、とても甘やかしたくなる。

「十四松くん、野球しましょうか」
「え!」
「三人でもいいですか?それともお兄さんと二人がいいですか?」
「三人!三人がいい!」

そういうと十四松君はわーい!わーい!と何度も何度もその場で飛び上がった。
その姿が可愛らしくて、微笑ましく見つめていると、カラ松くんの手が私の肩に乗った。
カラ松くんに目を向けると、とても真剣な顔立ちをしていて、

「十四松の野球は、とてもハードだぞ。」

十四松君の無邪気さと、カラ松くんのあまり出すことがない凄みに、私はすこし、怖くなった。
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