カラ松恋愛事変

□そのデート、乱入
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「おいおいお前ら、カラ松の邪魔してやるなよな。」
「たまたまだっての、なぁ、チョロ松?」
「あ、うん…」

腕を組み、おそ松兄弟たちを一睨みするチビ太に、おそ松とチョロ松が答える。
おそ松の飄々とした言い方や、チョロ松のバツの悪そうな顔、そして隣で不機嫌そうにカラ松の皿に盛られたおでんをバクつく一松を見て、
厄介な兄弟達を持つと大変だなぁとチビ太はカラ松の立場を案じた。
六つ子に囲まれた時雨をちらりと見ると、彼女は目を彷徨わせてすっかり畏縮しまっている。

可哀想に…
ただカラ松とのデートを楽しんでいただけの筈なのに、こんなことになって。
先ほどまでのカラ松と時雨から溢れる和やかな雰囲気は何処へやら、今ではすっかり身を潜めてしまっている。
だが、チビ太がここで何を言っても場を収束することはできないだろうことは自分でも分かっていて、椅子に腰掛け、カラ松や時雨、兄弟たちの出方を見守る他なかった。
何か仕出かしたら、六つ子を店から追い出して、時雨さんの安全だけは守ろう。
そう密かに思いながら…。







「なぁ、紹介してよ、カラ松?」

おそ松にそう促されて、カラ松は冷や汗をたらりと一つ流す。
何も悪いことをしていないはずなのに、尋問を受けているような気がしてしまう。
兄弟たち(十四松とトド松以外)に時雨の存在を話さなかったことに申し訳なさを感じているのか、それはカラ松自身にも分からなかったが、目の前に兄弟たちがいることに妙な焦りを感じていた。

「なんだよ、俺たちに紹介したくないってのか?」
「いや、そういうわけでは…」

頬杖をつき、こちらを一瞥するおそ松に、つい声がどもってしまう。
どう紹介すればいいか迷っていると、隣に座っていた時雨がカラ松の体からひょこりと顔を出して、助け舟を出す。

「は、初めまして。小野寺時雨と言います。カラ松くんとは最近仲良くさせていただいていて、今日も一緒におでんを食べに来ていたんです。」

そうおそ松達の方に向かって言い、そして左隣に座る十四松やトド松にも視線を向ける。

「ね?カラ松くん」

そして時雨がカラ松に問いかけると、カラ松も一つこくりも頷く。

「あ、どうも。うちの兄がお世話になってます。」
「あ、こちらこそ」
「僕、三男のチョロ松です。三男といえば、僕たち、六つ子なんですよ。
突然で驚きましたよね?」
「あ、カラ松くんから話は聞いてましたので、チョロ松さんのこともお話は伺ってます。」
「え?そうなんですか?」

時雨の丁寧な挨拶に、チョロ松も頭を下げて返事を返し、時雨もまた頭を下げて、の繰り返しにその場にいた誰もが状況を見つめていたが、
痺れをきらしたトド松が「なんかかたっ苦しいよチョロ松兄さん!」と叫び、
おそ松に至っては「さすが童貞!」と声を上げる。

「な!お前らも童貞だろーがッ!」

そう声を張り上げ言おうとした途中でおそ松に口を塞がれもごもごと口を動かす。

「女の子の前で破廉恥な言葉いうの良くないぞ、チョロくん?」
「てめぇ…クソ長男…」

わちゃわちゃと言い争う兄を無視して、トド松は身体を前のめりにして時雨に話しかける。

「時雨ちゃんよろしく!僕の名前はトド松、この六つ子の末弟だよ!
兄さん達が騒がしくてごめんね?」
「いえ、そんな。」
「あ、急に名前呼びなんて、馴れ馴れしかったかな?」
「そんなことないですよ!好きなように呼んでください」
「ありがとう!時雨ちゃんもそんなに畏まらないで、僕のことも名前で呼んでよ!」
「はい!トド松く「トッティ!!」…え?」

トド松と時雨が話していた間で鎮座していた十四松が話の途中で両手を大きく広げて、トド松と時雨を阻む。
突然のことにびっくりして、時雨は目も見開き固まっていたが、
トド松を指差してトッティトッティ!と何度も叫ぶ十四松を見て、あ、トド松くんの事かと気づいた。
トド松はというと、「十四松兄さん、嫌なこと思い出させないで…」と頭を抱えてしまっている。
そんなトド松を覗き込んで「どうしたのトッティ?」と話しかけるが、さらに「うう…」と頭を抱える。

「十四松兄さん、その呼び方はちょっと…」
「なんでー?」
「古傷が痛むからね。」

そんなやり取りをみながら、トッティというあだ名にはどんな体験が刻まれているのか少し気になった。
でも、トッティという呼称が可愛らしい容貌をしたトド松にとても合っているような気がして、とても愛着が湧くあだ名だなとも思っていた。

「時雨!せーの!」
「え?え?」

せーの!っといきなり掛け声を振られて、動揺したが、話の流れで十四松と声を合わせて呼ぶ。

「「トッティー!」」
「あん!もうそれでいーよ!」

トッティというあだ名にどんな意味が込められているのか全く分からなかったが、
机に腕をついて頭を埋めてしまったトド松くんに申し訳なさを感じて、十四松くんと私二人でトド松くんの方を叩き慰める。

「時雨ちゃんと十四松兄さんは特別ね!でも、出来ればトド松って呼んでほしいな!」

お願い、と上目遣いで言われて、不覚にも可愛らしいと思った。
女の私よりも絶対にトド松くんの方が可愛いのではないだろうか。
なんというか、言葉遣いや仕草、格好なんかも、女子力高いというか、なんというか。
そんな時雨たちを隣から見ていたカラ松は、突然髪ををかきあげて目を煌かせ始める。


「ふっ、天使との晩酌が喜ばしいことだからといって、慌てるのはナンセンスだぜ?トッティー?」

グラスを傾けながら、トド松に向けてそう言うと、先ほどまでの可愛らしいトド松は途端に鳴りを潜めて一言、「次トッティーって言ったら殺す。」と呟いた。
そんなトド松に、カラ松はかっこつけた姿勢は変えずに一言、「もう言わない」と告げた。

そんな両者の関係性をみた時雨は、二人の掛け合いを見ながら苦笑いをした。

「ねぇねぇ、時雨ちゃんって今何歳なの?」
「えーとですね、」
「こぉらトド松!兄ちゃん達無視して何話進めてるんだよ!!」

向こうでわちゃわちゃしていたおそ松やチョロ松が時雨達が楽しそうに会話をしているのに気づいて野次を飛ばす。

「俺らぜっんぜん時雨ちゃんと話せてないんだけど!席替えを所望しまーす!
とりあえずカラ松端っこ行けよ」

そうおそ松が言うと、カラ松が「えっ…」と気の抜けた返しをして、おそ松の隣に座っていたチョロ松がいやいやいや!と突っ込みをいれる。

「それはいくらなんでも可哀想でしょ!」
「あぁ?なんでだよ」
「だって、時雨さんは、その、カラ松の…その、なんだからさ。本当は邪魔もしちゃいけないと思うんだけど…」
「俺はただカラ松が世話になってる時雨ちゃんと親交を深めようとしただけです〜
邪魔じゃありません〜
別に今履いてるパンツの色聞こうとしてたわけじゃねぇんだからさ」
「当たり前ェだろうが!!!」
「ちょっと時雨ちゃんの前で変な言い合い始めないでよ、恥ずかしい。」
「「トッティは黙ってろ!!」」
「トッティって呼ぶな!!!」

端っこと端っこで言い合いを始めてしまって、段々と収拾がつかなくなってしまう。
十四松も十四松で「何々?!」と騒ぎに乗じてけらけら笑い騒ぎに乗じてしまっている。
「おめーらいい加減にしろよバーロー!」と騒ぎに呆れてチビ太が言葉を挟むが騒ぎが鎮まることなくどんどん加速してしまう。

そんな中、間に挟まれている時雨、カラ松、一松は沈黙していた。

「えっと、なんか大変なことになってない…?」
「…そうだな。」
「…お、面白い人たちだね!カラ松くんの兄弟皆さん!」
「ああ、そうなんだ。なんだかんだ、兄弟6人でいるのは居心地がいいし、楽しいんだ。」

そう言ってにこりと笑うカラ松を見て、ああ、本当に兄弟みんなのことが大好きなのだな、と思った。
それは、カラ松の今までの話の節々からも伝わっていたが、今、兄弟達の中にいるカラ松を見て、視覚的にもそれが分かった。
6人同じ背格好で顔立ちも似ているが、一人一人性格が全く異なる、中々個性派揃いの兄弟達だと側から見て思ったが、確かに、面白くて楽しそうな兄弟達だと思った。

「折角の晩酌を騒がしくしてしまってすまないな。」
「ううん、二人で飲むのも楽しいけど、皆で飲むのも凄く楽しいよ」

そう時雨が言うと、カラ松はすこしほっと肩の力を抜いて、少しお酒が入って赤くなった顔で、とても嬉しそうな笑みを時雨に見せた。


「お楽しみのところ悪いんですけど、質問いいっすか?」

カラ松と時雨が笑い合いお酒を飲んでいると、カラ松の隣から突然一松が身を乗り出し二人に近づく。

「どうした一松、お前も仲間に入れて欲しいのか?
今日は静寂と孤独を愛する松野家次男という肩書きを捨てて、共に楽しもうじゃないか。」
「黙ってろクソ松殺すぞクソ松」

カラ松の誘いをバサリときって、一松は時雨の方をじっと見る。

「見てたら分かるでしょ?こいつ、痛いことばっかいうしうざいしきもいし、服のセンスも悪いし。まぁ今日の格好はどうせトド松にでも見立ててもらったんだろうけど、」

突然ぺらぺらと話し始めたかと思えば、カラ松が隣にいるというのに罵詈雑言を並べ立てる。
その向けられた視線も、殺気を帯びたように鋭い目つきをしていて、見つめられている時雨はぶるりと身体を震わせる。

「しかもこいつ、親の脛かじってるクソニート、まぁ、ここにいる全員そうなんだけどね、ひひっ」

一松がどんどんと連ねる悪口に、カラ松の表情も段々と落ち込んできてしまっているし、カラ松の実の弟である一松に対して、時雨はどう対処していいか分からなかった。
そして、何を考えているのか、何ものもうつさないその表情からは何も分からなかった。

「なんでクソで痛いカラ松なんかと一緒にいれるわけ?あんたの頭もおかしいの?

「……。」

カラ松をちらりと見ると、その表情はもうどんよりと落ち込んでしまっていて、机に腕を乗せ肩を落としてしまっている。
本当に、本当に可哀想だと思った。

「あの…」

私が言わないと、私が…
そう心の中で意気込み口をついて出そうとした時、突然両肩を誰かに抱きしめられる。

「時雨、いじめちゃ駄目。」

抱きしめた腕は、十四松のものだった。

「…別にいじめてなんか、」
「一松兄さん。」

いつもと違って、押しの強い響きをもって自分の名前を呼んでくる十四松に対して、一松は罰が悪そうにそっぽを向く。

「分かったよ、十四松。俺が悪かった。」
「カラ松兄さんにも」

時雨に向かって謝った一松に十四松がそう言うと、途端に一松は顔を引きつらせて、口を引き結び苦悶の表情を浮かべる。
うぐ…と言葉を煮詰まらせるが、十四松がじぃ…と一松を見つめると、一松は観念して、小さくぼそりと…「カラ松悪かった」と言った。

そんな一松に、カラ松はとても驚いてしまい口をあんぐりと開け身を引いてしまっているし、
おそ松やチョロ松、トド松やチビ太もあんなに騒がしかったその場の空気もぴたりと静まるほど驚き凝視していた。

「一松…」
「これ以上しゃべったらこんにゃく鼻ん中つっこむ」
「う…」

一松に睨まれたカラ松は少し怯むが、一松に謝られたことに少しの嬉しさを感じているカラ松は、どうしても顔がにやにやと綻んでしまう。
そんなカラ松を一松が睨み、ぎりぎりと歯ぎしりをする。
そんな二人を見てから十四松を見ると、先ほどまでの迫力は嘘だったように時雨にべたべたと甘えている。

「時雨、飲んでる?飲んでる?」
「飲んでるよー、でも私お酒弱いからあんまり飲み過ぎるとあれなんだよね」
「へぇー!弱いの!飲んだら強くなるよ!」
「十四松くんは意外と飲ませたがりなのかな?」
「意外?!おれ飲ませたがり意外?!」

あはあはと笑う十四松を見ながら、トド松はその場の空気を変えようと努めて明るく聞く。

「ねぇねぇ、十四松兄さんはさ。なんでそんなに時雨ちゃんに懐いてるの?」

トド松がちらりと下をみると、十四松と時雨はちゃっかり腕を組んでいるし、そこからも仲の良さが伺える。
トド松の視線につられて兄弟たちも視線を下にすべらせて、それに気づく。

「腕組んでる!どこでそんなこと覚えたの十四松!」

えー!と驚きの声を上げてチョロ松が身を乗り出し叫び、俺も女の子と腕組たーい!とおそ松が叫び始める。
そんな二人をみて、時雨と十四松はきょとんと驚き、顔を見合わせる。

「俺たち!すっげー仲良し!」
「一緒に野球したからかな?」
「あめちゃんもくれた!」
「今日は持ってないんだよね、おでんならあるけど」
「おでん食べる!」
「食べよー食べよー、ってそれ私が食べてたやつ!」
「うンめー!」

時雨が食べていたおでんを横からパクリと一口で食べてしまった十四松に驚きながらも、しょうがないなぁと言って、持っていたちり紙を鞄から出して汚れた口の周りを拭ってやる。
そんな二人のほんわかしたやり取りに他の者たちは驚き口をぽかりと開ける。
そしてその中でカラ松だけが羨ましそうにその二人を見つめていた。
俺も食べさせてもらいたい…
そうカラ松は思ったが、兄弟たちのいる建前ではそんなこと言わず、閉口するが、目の前に立つチビ太にはカラ松が思っていることが手に取るように分かって、
情けない顔のカラ松を見て苦笑いした。



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