カラ松恋愛事変
□カラ松、風邪引いたってよ
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次の週も、その次の週も、カラ松くんは一松くんと一緒に赤塚橋にやってきた。
その度に顔は引きつってしまうが、
まぁでも…あまり一松くんは喋らないし、会話を邪魔するようなこともしないから、カラ松くんとの会話を楽しむことに変わりはない。
変わりはないが、カラ松くんへの扱いの酷さには頭を悩まされることが増えた。
一松くんのあの態度、どうにかならないのだろうか。
兄弟や姉妹間で暴言が飛び合うことや相手のことを悪く言ったり接したりすることは当たり前のようにあるとは思うのだが、それにしても限度を超えているように思えた。
カラ松くんが本当に可哀想と思えるほどに…
でも、それは兄弟間での話であって、部外者が立ち入る謂れはない。
だから私は何も言えない。
その現状に、ため息が増える。
カラ松くんも言い返せばいいのに、と思うことも多い。
けど彼は絶対に言い返さないで全部を受け止める。
それがカラ松くんの良いところで、私が大好きな部分でもあるから、なんとも煮え切らない思いを一人で抱えることになる。
結局仲がいいのか悪いのか分からない二人の関係性に、最近は振り回されているような気がしていた。
一松くんは本当に、何を考えているんだろうか。
私とカラ松くんを引き離したくて、だから赤塚橋に来るのか。
でも私に何かする、という訳でもないし、路地裏の時のようなことをされるわけでもない。
多少の暴言は少なからずありながらも、普通の会話をぽつりぽつりと話しかけられることもあったりする。
週を重ねるごとに、なんというか、一松くんが纏うトゲトゲした雰囲気の角がすこし、ほんの少しずつとれていってる気がして、話しかけやすくなったというか、そんなものを感じていた。
一松くんから話しかけられる時、不気味だなと感じることもあるし、喧嘩腰に言葉を投げられてイラっと感じることもあるけど、カラ松くんへの暴言を抜けば特にどうと感じることはなくなっていた。
それは私が一松くんの暴言耐性がついたからかなんなのかは判断しかねるのだが。
とにかく、自分のことは特にどうと思うこともないのだが、カラ松くんが傷ついた顔をしている顔はあまり見たくないわけで、
どう対処すればいいか解決策が見つからないため、今日もまた、赤塚橋に向かいながらため息を零す。
今日も待っているだろうか、あの二人は。
真っ直ぐ歩くと段々と赤塚橋が見えてくる。
自然と親しみのある後ろ姿を探してしまう自分がいた。
でも、あれ?
今日は、見知った姿が見当たらなかった。
珍しい。
今までにこんなことあっただろうか…?
彼がいつも立っている場所まで着いてしまい、はて、と考える。
連絡してみようか。
でも約束していた訳じゃないし。
こういうことも、あるだろう。うん。そういう時もあるさ。うん。
悶々と考えながら橋の向こうに続く水面を眺めていると、
「今日はクソ松来ないよ。」
最近毎週会っている、一松くんの声が隣から聞こえてくる。
「え、どうして…」
「風邪」
「…え?」
「だから、風邪」
風邪…と何度も咀嚼して、カラ松くんの姿がないことへの動揺が、カラ松くんの体調を心配する動揺へと切り替わった。
「え?!大丈夫なの?!」
「大丈夫じゃん?」
「軽い、一松くん軽い。何時から熱出してるの?」
「うるさい、耳元で喚くな。」
だるそうに、迷惑そうにそう言われて、一松くんに迫っていた体を一歩戻す。
「どれぐらい熱があるの?」
「今日の朝から、38度くらい」
「うわー、」
「馬鹿は風邪ひかないって言うけど、迷信だね。」
淡々とそういう一松くんを横目で見ながら、バクバクと大きく鳴る心臓をなんとか落ち着ける。
「動揺しすぎ、そんなにあいつが大切?」
そう聞かれて、どきりと変に心臓が高鳴る。
「…うん。」
「ふぅん。」
一松くんはつまんなそうに一言言うと、橋に両腕をついて、水面を見つめる。
「見舞いに来る?」
「…え。」
突然の一松の申し出に、とても驚いてしまう。
てっきり、クソ松は来ないからさっさと帰れば?クソ女、ぐらいを言われるかと思っていたのだが、
そもそもカラ松くんが熱を出していることを伝えに来たことにも驚いていた。
彼は本当に一松くんなのだろうか?と疑ってしまうほどに。
「来るの?来ないの?別に俺はどっちでもいいけど」
「行く!!行きます!!」
行かせてください!とお願いすると、一松はそんな声を荒げていう時雨を一瞥してから歩み始める。
それに時雨もついていった。
「あの、一松くん。お願いがあるんだけど」
「……なに。」
「お見舞いの品、買ってもいいかな?」
「……めんど」
「一松くんの好きなものも買っていいから。」
「……アイス、ドーナツ、今川焼き、シュークリーム、苺大福、梨。」
「ごめん、そんなには買えません。」
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