カラ松恋愛事変

□カラ松の葛藤
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青く晴れ渡った空の下、
いつもの時間にいつもの場所で、
カラ松くんとばったり会って、赤塚橋近くのベンチに座る。


「カラ松くん!全快おめでとう!」
「ふっ、中々俺の体から出て行ってくれなくて大変だったぜ、ライノウイルス」
「わー!全快だー!」

足を組みサングラスを外し瞳をきらりと輝かせ顔をバッチリ決めてくるカラ松くんを見て、思わず拍手してしまう。

「もうほんと良かったよ!風邪治って!」
「時雨の看病のおかげだ。」
「いやいや、私は特に何もしてないよ、おそ松くんとか、他のみんなが看病してくれたからだよ!」
「みんなには、心配をかけさせてしまったな。」

ふっ、と髪を靡かせ天を向くカラ松くんは、風邪から治って好調なのか、いつものカッコつけにも拍車がかかっているように思える。
でも、だからこそ、どうしても違和感が浮き彫りになってしまって、気になる。

「ねぇねぇカラ松くん。」
「どうした?マイスウィートエンジェル」
「…その頬っぺたどうしたの?」

カラ松くんの頬っぺたを指差して聞く。
カラ松くんのふわふわで柔らかい頬っぺたは、今は両頬とも腫れ上がり赤くなっていた。
しかも、その頬には手形までついている始末。

「痛そうだね、大丈夫?」

そう聞くと、先ほどまでのかっこつけが嘘だったように、両頬を抑えて顔が下がりめそめそといじけ始める。

「一松が…」
「やっぱり一松くんなんだね!」

こんなことをするのは彼しかいないとは思っていたが、やはりそうだったらしい。

今度は一体どんなお怒りを買ったのか。

今だに解明されていない、一松くんのカラ松くんに対する当たりのキツさの理由最初はカラ松くんが可哀想に思えて仕方なかったのだが、
一松くんと関わる内に、中々感情を表に出さない一松くんの感情表現の一つなのかな?と思えるようになってきてしまった。
都合よく解釈しすぎなのだろうか。
赤く腫れあがった頬を見つめながら、時雨はカラ松の次の言葉を待つ。

「さっき家を出るときに…」

カラ松は目と口をしょぼしょぼとさせながらあらましを話し始めた。

話によると、カラ松はいつものように、時雨に会いに行くため、鼻歌交じりに家を出ようとしていた。
でも、毎週のようについてきていた一松のことを考え、一応声を掛けておくかと一松を呼びに行った。

「一松、共に天界への階段を、登りに行かないか?」
「……。」

いつもなら一睨みしながらも、無言でのそのそとついてくる一松。
でも今日は寝転がったまま、動くことがない。
あれ?と思ったカラ松は寝転がる一松のそばに近づく。

「こ、来ないのか?」
「……。」

近くに行って声をかけると、先ほどまで寝転がっていた一松がむくりと怠そうに起き上がる。
起き上がった一松は、じぃ…とカラ松を見つめる。
その一松の顔は、何を考えているかさっぱり分からない。
サングラス越しに見つめていたカラ松だったが、そんな先が読めない一松の挙動に少し身を引いてしまう。

「どうした、マイスウィートブラザー。俺の麗しい顔に見惚れたか?」

カラ松がそう言った瞬間、突然左頬に激痛が走った。
あまりの痛さに、カラ松の頭も追いつかず、その場にへたりこみ、「え…?」と情けなく呟く。

「ど、どうしたんだ一松。ご機嫌ななめか?」

突然のことに驚いたが、弟の前でカッコ悪いところは見せたくない。
叩かれた頬は痛んだが、気丈を振る舞おうとへたれた体を奮い立たせようとするが、胸倉を掴まれ、今度は右頬を叩かれる。

「痛い…!!一松痛い…!!」

そうカラ松は言うが、一松の暴力は止まない。
何が起こっているのか分からないカラ松は痛い痛い!手加減して!と叫ぶことしかできず、何発叩かれたか分からないというところでようやく解放される。

カラ松は何が起こっているのか分からなかった。
一松に胸倉を掴まれたり、バズーカを打たれたり、石臼を投げられたり、サングラスを割られたり、
クソだのクズだの罵られたことはあるが、
無言で頬をひたすら叩かれたのは初めてだった。
い、痛い…と嘆いていると、一松はどこか満足そうに笑い、またカラ松に背を向けてその場で寝転んだ。

「い、行かないのか…?」
「行かない。飽きた。」

こちらを見ずにそう言う一松に、カラ松も「そうか…」と一言言うしか出来なかった。







そのまま時雨に会いに行ってしまったカラ松には、聞こえてはいなかった。

一松がぼそりと、

「僕がいない方がいいくせに。」

自分の身を抱きしめながらそう呟いたのを。



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