カラ松恋愛事変

□再会、そして…
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相変わらず、赤塚橋から見える景色はとても美しく、流れる川は、夕日を綺麗に移していた。

俺の心休まるベストプレイス。

嬉しかった時、落ち込んだ時、悲しい時、寂しい時、何かあった時はあそこからの景色をいつも眺めていた。
でも、いつの間にかその空間には、時雨が当たり前のようにいて、
時雨がいないこの場所は、どんな綺麗な景色を見せてくれたとしても、色あせて見えるようになった。

俺たちが出会ったのもここだった。
ちび太に誘拐され、兄弟に見捨てられボロボロになっていた俺に声をかけてくれ、優しく手を差し伸べてくれた俺の天使。
今思えば、初めて会ったあの日から、俺は時雨に心を奪われ恋に落ちていたのかもしれない。

俺の天使、
俺の想い人、
俺にとってかけがえのない、愛する人。

あの時、時雨は優しく手を差し伸べて俺を闇の淵から救ってくれた。
あの時の借りを、俺は一つとして返せていないだろう。
与えてもらってばかりの俺に、何ができるだろう。

頭の悪い俺には考えもつかないことかもしれない。
でも、それでも、
俺は時雨の傍にいたい。


「…カラ松くん。」
「…時雨。」

声の聞こえた方へ振り返ると、そこには久方ぶりにみた時雨の姿が確かにそこにあった。
俺は純粋に歓喜した。
時雨にまた会えた。嬉しい。好きだ。愛してる。
そんな思いが込み上げてくる。
でもそれと同時に、なんて儚く映るのだろうと思った。
慣れ親しんだ、時雨の姿とまた違う。哀愁漂い、そのまま消えてしまいそうなほどの危うさを持つ彼女に、カラ松は一歩一歩近づき、そして抱きとめた。

抱きとめた確かなぬくもりに少しほっとした。
時雨がいる。
俺の腕の中にいる。
間違いなくここに。

「嫌だったら振りほどいてくれて構わない。


そう耳元でつぶやくが、時雨は全く抵抗せず、ただ静かに、その胸の中で泣いていた。

一つ、一つと流れ出るその涙を見て、カラ松は自分のせいで泣かせたかと少しギョッとしたが、あまりの美しさに見惚れてしまった。

何も言わず、ただ泣き続ける時雨を、カラ松も何も言わず、優しく抱きとめた。

あの日の借りを返すように、ただひたすらに優しく…
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