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□鬼
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「お前、鬼になれよ。そしたら俺の一番弟子にしてやるから。」
「……。」
「じゃないと、お前このまま死ぬぞ?」
なんとか全集中の呼吸をして止血をしながらも、凛人の姿は悲惨だった。
片腕は粉砕され、右耳もどこかへいった。
身体中の骨はそこかしこに折れ、酷使しすぎた筋肉の繊維もずたぼろであった。
助けが来る気配もない。
私はこのまま死ぬのか。
「あのお方に頼んでやる。お前が斬った香久耶も、俺があのお方に頼んで鬼にしてもらったんだからな。」
ぺらぺらとにやついた笑みを崩さず話し続ける鬼を見ながら、
自分の血か、鬼の血か、むせ返るほどの血の匂いを嗅ぎながら、
自分の体の奥の血液がどくどくと音を立てて巡り熱くなっているような感覚に陥る。
目の前も、どんどん真っ赤に染まっていく。
この状況に、覚えがあった。
自身の家族を殺された時も、体の奥から熱くなって、目の前が真っ赤になって、それからどうなったのだったか、覚えてない。
「鬼となり共に生きよう。」
「嫌だ。」
「…なら死ねよ。」
また鬼が来る。なぜかとても、その動きが遅く見える。
「安心しろよ、逃げたもう一人もこの後すぐに追いかけて殺してやるからな。」
その言葉を聞いてさらにかっと体が熱くなる。
視界が更に真っ赤に染まる。赤に埋め尽くされる。
ああ、なんて身体が軽いのか。
あれほど痛かった身体も、まるで痛くない。
意識も、だんだんと、遠くなって、それから、それから…
「何故お前から、あの方の気配がする…!!」
はっ、と意識がぶり返した時、鬼の首が、とさりと地面に落ちた時だった。