□幸せな時間
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「凛人。いつまで寝てるんだ?そろそろ起きろ。」

聞こえてきた声にはっと驚いて目を覚ます。
目の前には、自分を覗き込んでる錆兎の顔が見えた。

「寝ぼけてるのか?」

ぺし、とおでこを叩かれて、痛い、とそこを摩る。

頭がぼんやりする。
あれ、自分はいま、何をしてたんだっけ。

「すごい、長い時間寝てた気がする…。」
「義勇も起こしてやれよ。」
「え?なんで、」
「凛人が起きたら起きるって言ってたろ?」

指を刺された方を見ると、自分の隣で幸せそうな顔をして眠る義勇がいた。
その顔を覗き込む。
こんな幼い顔をしてたっけか、記憶に新しいのは、もう少し精巧な顔立ちの青年だった気が…そんなことを思う自分にあれ?と思う。

「なんか、起こすのが可愛そうなぐらい寝入ってるね。」
「まぁな、お前もそうだったぞ。」
「ちょっと昼寝してから山下ろうぐらいに言ってたのにね。待たせてごめん、錆兎。」
「別にいいよ。俺もちょっと寝たし。」

じぃ、と寝入る義勇の顔を見つめて、悪戯心がふつふつと湧いてその身体に飛び込んでみる。
案の定義勇がびっくりして飛び起きた。
まさに、鳩が豆鉄砲をくらったような滑稽な表情をして。

「おはよう義勇、なんて顔してるんだ。これが鬼だったらどうする、隙だらけめ。」

けらけらと義勇の身体に乗ったまま笑い転げる凛人を見て、錆兎は「また義勇をからかって…」と頭を抱えているし、当の義勇は段々と事態を把握して、表情を曇らせていく。

「鬼の前で眠りこけたりなんてしない。」
「分からんだろうそんなこと、いつでも気を張れ」
「そんなお前はどうだったんだ?凛人。」

そう錆兎に言われて、凛人はぐぅ、と言葉を詰まらせる。
実際に自分もすやすやと寝入り錆兎に起こされた身であるからだ。でも自分のことは棚に上げて、錆兎からは視線を外し、義勇の身体からどかず押さえ込む。

「おい、凛人!体をどけてくれ!」
「自分で抜け出してみろ、これも修行だ!」
「苦しい!卑怯だぞ!」
「いい加減にしろお前ら!日が暮れるぞ!」

ぎゃーぎゃーと三人で言い合い取っ組み合いをしながら何重もの罠が仕掛けられた山を降りて鱗滝さんの元に戻る。

戻った後も次は剣を構えて打ち合いをした。
今日一日休息の日にすると言わなかったか?と鱗滝に言われるが、
「体が鈍るよ。」
「昼寝はしたよ。」
「十分休息は取りました。」
と口々に言い打ち合いを始めてしまう姿に、鱗滝はやれやれと首をふり、再度夕飯の支度を始めた。

そんな時、義勇の剣が凛人の顔をズバッと斬った。
あ、と思った時にはたらりと血が垂れていく。

「すまない!凛人!」

焦ったように近づいてくる義勇に「なんだよ、大丈夫だよ。」と不服そうな顔をするが、錆兎に布を当てられ座らされる。

「大丈夫だって、義勇?続きをしようよ。」
「顔に、傷が残ったらどうしよう。」
「かっこいいじゃん、錆兎とお揃いだ。」

な?と錆兎の傷跡を触ると、くすぐったそうに退く。そんな錆兎にけたけたと笑い、錆兎の手から布を取って自分でおさえる。

「こんな怪我、いつもみたいにすぐに消えるよ。」

いつもみたい、というのは、凛人は昔から常人よりも傷の治りが早かった。
特異体質、とでも言うのだろうか。
昔はそんな凛人を見て気味悪がるものが多く、凛人はなるべく隠していた。
だが、錆兎と義勇は気味悪がるどころか、
どんなに傷を負っても他の者よりも早く立ち上がれる強さを持ってる、羨ましい。と言い放ったのだ。
そんな二人に凛人は驚いたし、尚更大好きになった。

しばらく当て布であてていたが、布を離すとたしかに、その傷は塞がっていた。

心配そうに見てた義勇も、ほっと胸を撫で下ろす。そんな義勇を見て、凛人は義勇のおでこに強烈なデコピンをして、にやりと笑う。

「お返し。」

けたけたと笑い、剣を持って立ち上がった凛人が開始の合図をして、鱗滝さんが呼びにくるまで剣の打ち合いをし続けた。
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