□鬼殺隊柱合裁判
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身体中痛い。息もしにくくて苦しい。
いまはとにかく、眠っていたい。
そう思っているのに、周りがざわざわと騒がしくて、鬱陶しくて、もう少し静かにしていて欲しいな、なんて思っていた時。

「いつまで寝てんだ!さっさと起きねぇか!!」
「柱の前だぞ!!」

竈門炭治郎が覚醒して顔を上げると、そこには圧倒される気配を見に纏った鬼殺隊の隊士がずらりと並んでいた。

柱って何だ?
何のことだ?

起き抜けに知らない場所、知らない人ばかりが周りにいて、炭治郎は困惑する。

あれ?自分はどうしたんだっけ?

少し考えて、自分が善逸や伊之助と共に鬼と戦ったこと、下弦の鬼と遭遇し殺されそうになっていたところを冨岡に助けられたことなど思い出していた。

その場にいる者皆んなが思い思いに発言をする中、炭治郎はひたすらに、自身の大切な妹、禰豆子を視線を動かして探す。
そして共に戦った善逸や伊之助、村田の姿も探すが見つけられない。

そうこうしていると、話はその場の者たちでとんとんと進み、自身の恩人である冨岡の処罰はどうするか、という話になる。

自分や、禰豆子の身の潔白を証明すれば、冨岡さんの処罰もなくなるはずだ。

そう思い、炭治郎は、なんとか腹から声を出して、禰豆子は人間を食べない、人を守れるのだ!と宣言するが、聞き入れてもらえない。

何故だ、何故誰も信じてくれないんだ。
自分の発言力の無さに唇を噛み締めていた時、ふと凛人の姿を思い出した。
凛人さんも人を喰らわずに、どこにも属すことなく人を守り続けている。
だけど、凛人さんは鬼殺隊から追われているとも聞いた。
鬼であるというだけで、凛人さんは、何もしていないのに。鬼殺隊と同じように、人を鬼から守っているのに。
凛人も、誰も自分を信じてくれない事に悔しさや悲しさを感じたのだろうか。
凛人の悲しげな表情を思いまして、炭治郎は胸をつきんと痛ませた。


風柱である不死川が、禰豆子に刀を突きつけた時、炭治郎の怒りの沸点は頂点に達した。

「俺の妹を傷つける奴は、柱だろうが何だろうが許さない!!」

炭治郎は不死川へ走り、間合いを詰め、そして、皆が驚く中で、不死川へ頭突きをかました。

炭治郎は、禰豆子を背後に守り、そして、怒りのままに叫ぶ。

「善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら、柱なんてやめてしまえ!!
お前らよりも、よっぽど凛人さんの方が鬼殺隊としての信念を貫いていた!!」

そう、炭治郎が腹の底から叫んだ時、まわりがざわりとどよめいた。

凛人、
いまこいつは凛人と言ったのか。

その事に炭治郎も気づき、内心冷や汗をかく。
凛人さんのことをつい大声で叫んでしまったが、まずかっただろうか…。

そんな時、皆からお館様と呼ばれる、輝哉が姿を現した。
そして輝哉は言った。
炭治郎と禰豆子のことは私が容認していた。そして皆にも認めて欲しいと思っている、と。

各々がその言葉に否定する中、
次は、輝哉の隣にいた産屋敷の者が、輝哉の指示のもと手紙を読み上げる。

その内容は、
禰豆子は人を喰らわない事、
もしも禰豆子が人を喰らうことがあれば、
鱗滝左近次、冨岡義勇が腹を切ってお詫びする。
といったものだった。

その内容を聞いて、炭治郎は涙した。
周りが批判する中、
恩人である鱗滝さんは、冨岡さんは、自分たちを認め、信じ、責任を共に果たそうとしてくれている。命までかけてくれている。
そのことに、炭治郎は、ひたすらに嬉しかった。
家族を殺され、妹と二人取り残され、自分がなんとかしないとと肩肘を張っていた。だが、そんな自分たちにも、味方となってくれる者がいる。
その存在に改めて気づかされ、頭が上がらない気持ちと、感謝をひたすら胸中で思っていた。

皆が皆、輝哉の話を聞いていた時、突然不死川が自身の腕を刀で切った。
そして、声高々に言い放った。

「お館様…!!証明しますよ俺が、鬼という物の醜さを!!」
「オイ鬼!!飯の時間だぞ喰らいつけ!!」

そう言うと、不死川は禰豆子が入った箱に向かって自身の血を垂らし始めた。
そして、屋敷内に移動し、更に禰豆子を刀で傷つけ始める。
炭治郎は怒りに怒った。
蛇柱、伊黒に押さえつけられながらも、水の呼吸を使い、血管を破裂させようとする無謀な行為をするほどに。
炭治郎の身が危ないという時、冨岡が伊黒の手を取り炭治郎の拘束をといた。
それを好機ととり炭治郎は禰豆子に近づき、名前を叫ぶ。
それと同時ぐらいに、煉獄が動き、不死川の腕を取り禰豆子から距離を取らせた。

「煉獄、何のつもりだァ…?」

不死川は煉獄に訝しげに話しかける。だが、煉獄は何も言わない。いつも口角を上げて快活な彼の表情は、珍しく真顔だった。
そんな煉獄に、不死川は少し気圧される。

そんな中、禰豆子が人間の血に反応して襲いかからずそっぽを向いたことを聞いた輝哉が現状を理解して、口を開いた。

「禰豆子が人を襲わないことの証明が出来たね。」

その言葉に、柱の皆は、もう何も言えなくなった。

「炭治郎の話はこれで終わり。そろそろ柱合会議を始めようか。」

輝哉の言葉で、柱合会議の幕が開く。
下がって良い、と言われた炭治郎は、隠に抱えられながら退散しようとした。
その時、

「凛人と会ったんだね。」

そう言った輝哉の言葉に、炭治郎は肩をびくりと反応させる。

「凛人のこと、どう思った?」

輝哉に凛人のことを聞かれるが、鬼殺隊に追われている凛人の情報を言ってもいいものか躊躇われて、炭治郎は口を噤んだ。
そんな炭治郎に気づいたのか、輝哉は続ける。

「私は凛人を斬って欲しいと思わない。ただ、もう一度会いたいんだよ。」

そう言って微笑んだ輝哉を見て、炭治郎は驚く。
凛人は鬼殺されるために、追われているわけじゃないのか?
輝哉からは嘘の匂いが全くしなかった。
その事に、炭治郎は内心安心した。そして、輝哉に伝えなければと、炭治郎は口を開いた。

「凛人さんは鬼だったけど、温かくて、優しい人間の匂いがしました。でも、何かを必死に探してる、迷子のような、寂しい匂いがしました。危険な匂いは全くしませんでした。」

そう炭治郎が言うと、輝哉は、「そう。」と一言言って、「下がっていいよ。」と朗らかに笑った。


そんな様を、煉獄は思案顔で、冨岡は悲しそうに見つめていた。
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