□既視感
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鬼と戦い、両腕を折られ、口からは血を零し血濡れた姿となっていた杏寿郎の姿に、既視感を覚えた。
以前にも、私は同じ光景を見たことがある気がする。
でも、杏寿郎ではなく、誰か、違う。他の者の姿と被る。

「凛人。」

とても大切な存在だったように思える。
名前を呼ばれると、安心して、隣にいると、勇気をもらえた。

私にとって、かけがえのない、失ってはいけない存在。



「泣き虫義勇。」
「…泣き虫なんかじゃない。」
「ほんとか?」
「もう泣かない。」
「へぇ、そうか。」
「凛人は、泣いていいぞ。」
「なんでだよ。」
「…俺は知ってる。凛人が実は怖がりで、泣き虫なこと。」
「…生意気なことを言う。」


肩をぱしりと一つ叩いて、鎹鴉の指令の元、鬼のいる場に向かう二人が自分を通り抜けていく。
そうだった。
錆兎がいなくなって、二人で過ごすようになると、以前と見違えるほど義勇は逞しくなった。
弱音を吐かなくなったし、泣かなくなった。

「俺が、凛人を守る。」

まるで錆兎の穴埋めをするかのように。

そんな義勇を見て、強がりな奴め、と思ってた。
でも義勇がそれを望むなら、それに私も応えてやるかと思ってた。守らせてはやらないけど。

だって私にとっても、義勇は大切な存在なのだから。


だから、上弦の鬼と戦った時も、義勇だけ逃して、私だけその場に残って、義勇を置いてけぼりにした。
鬼のいない世界で共に生きようと約束したにも関わらず、私は、鬼となってしまった。

義勇、約束を守れなくてごめん。
一人ぼっちにしてごめん。
寂しい思いをさせてごめん。

一人で鬼と戦わせて、ごめん。

でもいつかまた貴方と会って、笑いあえる日々を過ごしたい。
貴方と共に生きる未来を夢見たい。

だから、私は、
鬼を、斬る。
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