□煉獄家
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朝日が部屋に差し込む
その眩しさに目を覚ました。

今は何刻だろう、
朝餉の匂いが微かにするからそろそろ千寿郎が起こしに来るかもしれない。

身支度を整えるかと体を起こそうとすると、違和感を感じて、布団の下を覗く。
すると、すやすやと気持ちよさそうに寝入る凛人の姿があった。
そのことに一瞬硬直して、そして、ああそうだったと思い返す。

夜更けに凛人が自室に来た。
そして話し込んでいると、段々と凛人がうつらうつらとし始めて、終いには自分の布団に入り込んできたのだ。

もちろん躊躇ったし新しい布団でも出すかと思ったが、
「おやすみ、杏寿郎。」
と警戒心もなく自分の体にピタリとついて寝入ってしまった姿を見て、まぁいいかと思った。
まぁ良くはないのだが。全然!
凛人の髪は短髪に切られ一見男子のようだが、その本質は女子だろう。
なのに警戒心がなさすぎる。なさすぎてこちらが意識する方が馬鹿らしくなるほどに。自身が鬼だからとかそんな理由ではない、本質だろう。

すやすやと穏やかに眠る姿はまるで幼子のようで、自身の弟の千寿郎と少し姿がかぶる。
それなら妹のように思っているのかと言われると全くそうではなく、何かしらの感情が身を潜め傍に佇んでいるようだったがその感情に名前をつけるのはひたすらに恐かった。
だから、自分は何も知らないふりをして、凛人に接するのだ。



凛人が寝入る姿を初めて見た。
いつもは自身を匿っている誰かの元で体を休めているのだろう。
そう考えると自分のことを信頼して今回は傍で共に眠ることを決めたのかと思うと、とても愛らしく感じた。
だからその眠りを邪魔したくはなかったし、遠慮して傍を離れられてしまうのも寂しく感じたため杏寿郎はその場で共に眠ることにした。

だが、この現場を実際に見た者はどう思うだろうか。
驚愕し、色々と誤解を受けるだろう。

今襖を開けて自身を起こしにきた千寿郎のように。

「…兄上、ごめんなさい!」

そう言って襖を律儀に閉めてパタパタと駆け足で出て行ってしまった自身の弟に、そしてこれから凛人とも直面するだろう父に、なんて説明をしようかと頭を悩ませた。

そんな杏寿郎の思いはつゆ知らず、太陽の光に当てられながらも、凛人はすやすやと穏やかな、幸せそうな顔をして寝入っていた。
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