□嫉妬
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冨岡は困っていた。
どうしようかと悩んでいた。

「義勇は他の奴にも命を預けていたのか。」

そうかそうかと言う凛人の姿は明らかに拗ねていた。
胡蝶しのぶから竈門炭治郎の妹であり鬼でもある禰豆子の話を聞いてからずっとこんな調子だった。
竈門炭治郎と出会った経緯など端的に伝えると「そんなことだろうというのは分かってる。」と言われてしまい他に説明のしようもない。
腹を切ると誓ったことも嘘ではないため弁明することも出来ず、冨岡は困っていた。

冨岡を困らせているなぁ、と言うのは凛人も分かってた。
だけど、なんとなく、自分以外の誰かに命を懸けているというのが癪だった。

鬼殺隊誰もが自分の命を懸けて鬼と戦っている。大切なものを守るために。
だけど、そういうことではなくて、
大衆的にではなく個人的に、しかも女子に、というのがどうも凛人の中で釈然としなかった。

どうして自分がこんなにもやきもきするのかもわからなくて、凛人自身も困っていた。
もうそろそろ普段通りにするかとも思うが、自分が最初に始めた素っ気ない態度を今更急には戻せなくて、なんとなく未だに義勇に背中を向けてしまう。

寝たら治るだろう。
寝て起きたら元どおりだ。

そう思い凛人は布団の中に入り寝ようとした。
すると、突然義勇に思いっきり腕を引かれて、受け身を取ろうとしたがうまくいかず、そのまま二人で布団の上になし崩しになる。

その二人の様は、正に男が女を押し倒しているようだった。

凛人は突然のことに鳩が豆鉄砲を食ったようにきょとんと冨岡を呆けた顔で見つめた。
だがその反面、冨岡は至極真剣な顔をしていた。

「俺の一番は凛人だ。凛人の一番も俺であって欲しいし、他の誰かではダメだ。煉獄にお前の首は斬らせないし、お前と生死を共にするのも俺だ。」

腕を握る力が強い。
思わずそちらを見ると、冨岡もそのことに気づいて、力を緩めた。

「俺の気持ちをわかって欲しい。」

そう、冨岡は切実に言うのだが、話が飛びすぎて凛人には今いち理解できない。
多分、義勇の中で色々考えて考えて考えぬいた末に出した結論だったのだろうが、その過程をすっ飛ばしてしまっているから突然の口早に言われる言葉に突然どうしたと頭に疑問符を並べてしまう。
だけど、義勇の言葉を聞いて、なんとなく、凛人は自分のざわついた気持ちが落ち着いたようにも思えた。

「義勇、困らせてごめん。お前の気持ちは分かってるよ。ありがとう。」

緩められた手から腕を抜き、そのまま義勇の首に回す。
そして、片方の腕を背中に回しぽんぽんと叩く。義勇の心も落ち着くように。
そうすると、義勇は顔を、凛人の首に突っ伏した。

そんな義勇の頭を撫でながら、凛人は天井の木目を眺めていた。

「もう寝よう、義勇。」

そう凛人がしばらくして言うと、義勇はこくりと頷き隣の布団に移動し眠り始めた。
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