□吉原篇 序章
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「おいお前、何てったっけ。」
「竈門炭治郎です!」
「おう、炭治郎。お前、冨岡の弟弟子だろう?」
「そうですけど、冨岡さんがどうかしたんですか?」

そう炭治郎が聞くと、自称神だと名乗る宇髄天元は何事かを思い出しながらにやにやと笑い出した。

「今あいつ、凛人って鬼と行動を共にしてるらしいんだが、
…そもそも凛人を知ってるんだったか?」
「はい、以前に一度凛人さんとはお会いしたことはありますけど、」

炭治郎が凛人、という名を聞いて思い出す記憶。
それは珠世さんの元で鬼に襲われていた時、颯爽と現れて自分の目の前で鬼を斬った。
自分を振り向き浮かべたあの悲しげな表情を、炭治郎で今でも忘れられないでいた。
そして、炭治郎にとって凛人は希望の光であった。
それは、鬼となった今でも人を喰らわず人を守っていられる唯一の存在であるからだ。
凛人さんともう一度会ってみたいと切に思っていた。
そんな凛人さんが自分の兄弟子でもある冨岡と行動を共にしている。
それは一体どういった経緯なんだろう?と不思議そうに首を傾げていた。その顔を見て宇髄はぴくりと眉を顰める。

「なんだよ。お前、知らないのか。」
「何をですか?」
「凛人は元水柱の一派だぞ。言うなればお前の兄弟子だ。」

そう宇髄に言われて、炭治郎は目を見開き「そうなんですか!?」と大きな声を出す。
それにつられて傍にいた伊之助も「あの狐面知ってんのか!俺と戦わせろ!」と宇髄に詰め寄り、頭を押さえつけられる。善逸はあまりの二人の声の大きさに耳を塞ぎ、「うるさいなぁもう!」と不満気な声を出す。そんな善逸自身も凛人のことはあまり知らない。以前無体なことをしてしてから一度も会えていないため自分の印象をいつか払拭したいなとは思っていたため、凛人のことを知っておきたいと聞き耳をたてる。

そんな三人衆を見て、宇随は頭に手を当て項垂れる。
一から話さないといけねぇのか、めんどくせーな。と。

「いや、やっぱいい。気にすんな。」
「え!教えてくれないんですか?」
「狐面の居場所教えろよオッサン!」
「ここまで勿体ぶって言わないとかケチ臭すぎだろ、みみっちいな。」

約一名はデカいたんこぶができるほど頭を殴られ撃沈する。
炭治郎と伊之助は横目でみて、ぶるりと体を震わせた。

「まぁ別に大した話じゃない。あの堅物の冨岡がご執心だって話だよ。」
「ご執心?」
「凛人は女だろ?鬼だが戦力もある。藁にもすがる思いで聞いてみたんだよ。凛人を貸せって。そしたらあいつ、いつも仏頂面で一人狼気取ってる奴が、血相変えて俺に楯突いて来やがった。凛人を吉原なんかに行かせられるかってな。その面があんまりにも面白かったんで、ついな。誰かと共有したかったんだよ。なんでもねぇ、忘れろ。」

また思い出してでもいるのか、ぷくく…とにやついた笑みで笑いをこぼす宇髄の姿に、凛人の最近の動向や、冨岡と凛人の関係性など聞きたかった炭治郎であったが、聞ける雰囲気でもなくおし黙る。
伊之助はひたすら「半々羽織に会ったら二人もろとも俺が相手をしてやる!」など戦いを挑む気満々であるし、善逸に至っては、「女性と鬼討伐も衣食住も全部共にしてるとか羨ましすぎだろ囲ってんじゃねぇか柱になればそんなことしていいのかざっけんな!」と憤慨しているし皆ばらばらで取集がつかない。

宇髄も、余計なこと言ったな、と内心後悔しながらその場から走って姿を消した。
そしてその後ろを三人でなんやかんやとわちゃわちゃしながら追いかけ、
戦いの舞台となる吉原へと近づいていった。
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