□吉原篇 終焉
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「お前の身体は大丈夫なのか。」

倒壊した瓦礫の中に横たわる宇髄が、目の前に立つ凛人に言う。
凛人は遠くを見つめ、炭治郎や伊之助達の生存を確認し、宇髄へ向き直る。

「どうという事はない。私は鬼だから。お前の方が重症だ。」
「お前じゃねぇ、音柱の宇髄天元だ。天元様と派手に呼べ。」
「……天元。」

凛人は宇髄の傍により、先程まで毒で爛れていた顔を触り、確認する。
内心名前で呼ばれたことや触られたことに驚いていたが、宇髄はそれをまるで表情にださず、されるがままにさせていた。

「毒は消えたようだな。」
「ああ、大分楽になった。お前の熱烈な口吸いのおかげだ。鬼にしては中々に良かったぞ?」

そう憎たらしくも笑っていう宇髄に凛人はさして気にもしなかったが、宇髄の斬られた目や、失くした腕を見て、煉獄の姿が被った。

「また私は守れなかったんだな。」
「…あ?」

自身の傷を見て項垂れ、悲しげな表情を浮かべる姿に宇髄は拍子抜けする。
なに言ってるんだこいつは。
正直言うと、凛人が血を分けてくれなければ自分はあの場で死に絶えていたかも知れない。だがあそこで毒の効果が薄まったおかげで妓夫太郎の動きを牽制する事が出来たし、善逸達他も絶体絶命の状況から打破出来たからこそ良き方向に歯車が回り始めたと思っている。
なんなら言うと癪だ。鬼に助けられたなんて思いたくもない。
だが、目の前の鬼の落胆ぶりを見るとなんだか苛ついた気持ちになる。
私のおかげでお前達は助かったのだと鬼らしく不遜な態度をとってくれた方が幾分かましだったかもしれない。それはそれでまた苛つくのだろうが。
こいつはまるでそんなことをしない。
そもそも不思議なのはこいつは全く鬼らしくない。
自身を鬼だと言うわりに人間の血を見ても反応もない。
なんなら自身の血を分け人間を助けた。
なのに傷を負った人間を見て自分の責任だと落胆している。
しかも最後の妓夫太郎の攻撃も、その場の者に当たらないよう避難を優先させ、避け切れない攻撃を一身にくらい、鬼であるから回復力は人並み以上だが、傷つきはする。人知れず血反吐を吐く姿も見ていた。
自己犠牲が強く悲観的な目の前の鬼に、宇髄は調子が狂うな、と右腕で頭を掻く。そして、目の前の凛人の額に指を当て、軽く弾いた。
突然の額の衝撃に凛人は目を見開き驚く。何をするんだとその顔が物語っている。
自分が一本取ったような気分になってようやく宇髄は溌剌とした気分になる。

「お前のおかげで俺の嫁も、後輩も誰も死んじゃいない。それで万々歳じゃねぇか。鬼に言うのは癪だが、礼を言うぜ。」

ありがとな。
そう言って笑った宇髄に、凛人は驚きながらも、笑顔で返した。
凛人の笑顔を見た宇髄は、なんだこんな可愛らしい顔も出来るのかと少々驚いた。
そんな時、「天元様!」と自分の愛する嫁達の声が聞こえてくる。

三人の嫁が天元に駆け寄り泣きつき抱きつく様を、凛人は一歩離れたところで見守った。

そんな時、様子を見に来た炭治郎と禰豆子が宇髄の生きている姿を見て安心し、そして凛人の存在に気づいた。

「凛人さん。」

戦闘中、満身創痍ではあったが凛人の存在には気づいていた。
そして、最後の妓夫太郎の攻撃も自分を庇って受けてくれたことも知っていた。

ありがとうございますと炭治郎が礼を言う前に、凛人は炭治郎の頭を撫でた。

「よく戦ったな、偉いぞ。」

そう言って笑って言った凛人の顔を見て、炭治郎は驚いた。
自分が以前会った時と表情がまるで違くて、色がついたようだったからだ。
そして匂いも異なる。
まるで迷子のように何かを必死で探している寂しい匂い、以前そう形容した物悲しい匂いが消え、優しく温かな人間の匂いが強くなっていたから。

炭治郎が呆けながら凛人を見ていると、凛人は炭治郎の耳元で伝える。

「珠世からの言伝だ。禰豆子は近いうちに、太陽を克服するだろう。」
「…え?どういうことですか?」

炭治郎が聞くが、凛人は微笑むだけで何も言わない。
また頭を一撫でし、隣にいた禰豆子の頭も優しく撫でると、その場から音もなく、姿を消してしまった。
その余りの早さに炭治郎はまた驚く。

宇髄はその様を見ており、炭治郎に問う。

「あいつが凛人か。」
「はい、そうです。」
「冨岡や煉獄が執心するのも分かるな。あいつは人を惹きつける。」

そう言った宇髄に、周りにいた嫁達は、え?と宇髄を一斉に見る。
そんな嫁達の視線に気づいて、俺はお前達のことを一番に思ってるとにこやかに笑った。
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