□帰家
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しばらく行動を共にして、衣食住も共にするようになって、凛人は五年前とあまり変わらないように思う。
相変わらず自分には悪戯っ子のように嗾けてくるし、戦闘の時はお互いなにを言わずとも次の行動が手に取るように分かる。
凛人は段違いに強くなった。だけど、戦闘の癖は昔と変わらないし、自分の癖も見抜いて行動してくれる。凛人と行う鬼討伐は、どこか心穏やかになれた。

凛人と共にいればいるほど、ああそうだったなと過去が想起される。
そして、改めて自分の傍に凛人が帰ってきたのだと実感するのだ。

一人でいることに慣れたつもりだった。
一人で生きていくことを決めて、平気なつもりだった。
だけど、凛人が俺の傍に戻ってきた。
人間ではなく、鬼として。

凛人は言った。
鬼のいない世界でお前と共に生きる。
そんな夢を果たすため、鬼となり、鬼を斬る。
鬼のいない世界というなら、鬼である凛人はどうなってしまうのだろうか。
凛人自身はどうするつもりなのだろうか。
俺は凛人が鬼でも人間でも関係ない。
凛人と共にこれからも生きたい。
俺の前からまた凛人が消えることになれば、もう、立ち直れる自信がない。
そう言えば、凛人は鼻で笑って、甘いなと俺を馬鹿にするだろう。
そんなことは分かってる。
だけど、俺は凛人をもう金輪際手放すつもりはない。
もっと強くなって、俺から凛人を奪うもの全てを、斬り伏せる。
表情には出さないが、冨岡は凛人に対して熱い思いを胸の中で燻らせていた…。


ある時、凛人が煉獄との約束があるからと煉獄の元へ向かった。
以前修行相手となると約束していたからだ。
一緒に行きたかったが、冨岡は水柱というだけあって、行うべき仕事量が膨大であった。
指令も丁度入りしぶしぶ了承して向かわせたが、それから凛人が中々帰ってこない。
一泊して夕刻には戻るとの話だったが、夜が更け、白んできてもなお、家には戻ってないし便りもない。
確認のために煉獄へ文を送ってみる。
するとそこには、凛人は帰路に着いたはず。と書かれていた。

冨岡は刀を持ち、家から出た。
様々な憶測が頭に浮かんだ。
そして最悪の結果も考えた。
鬼舞辻無惨に捕らえられたかもしれない…。

冨岡は走った。
走ってどこもかしこも探した。
だが、居場所に検討もつかず一向に姿を見つけられないことへの焦りがどんどん加速していく。

凛人がまたいなくなる。

考えたくもないが、最悪の想像をすればするほど絶望が自分の中に広がっていく。

そんな時、煉獄から一通の文が鎹鴉によって届けられる。
凛人から吉原はどの方角かと聞かれた。もしかしらたら向かっているかもしれない、何か知っているか。といった内容だった。

吉原…!
冨岡は思い当たる節があった。





「よぉ、冨岡。ちょっとばかし頼みがあるんだが。」

以前、突然音柱の宇髄天元が冨岡邸を訪れた。
急な来訪に、冨岡は怪訝な顔をして対応した。念のためと凛人は奥に篭せて。

「…内容による。」
「花街は鬼が潜むと推測して俺の嫁を三人潜入させた。だが定期連絡が途絶えた。何かあったに違いない。」
「三人の嫁…。」
「なんだ羨ましいのか。」
「いや、全く。」

きっぱりと言い放った冨岡に、ああそうかよとさして気にもせず宇髄は続ける。

「人手が欲しいが、中々良いのが見つからねぇ。」
「俺に協力要請をしにきたのか?」
「いや、お前じゃない。」

ちらりと宇髄の視線が冨岡邸の奥へ注がれ、冨岡はその視線を遮断するようにその前に立ちふさがった。

「冨岡お前、最近件の凛人って鬼と連んでるらしいじゃねぇか。」
「…それが?」

凛人の名が出たことに、冨岡の眉がぴくりと動き更に表情を曇らせる。

「いやな、俺は鬼と行動を共にしていることに対して苦言を漏らしに来たわけじゃない。お館様も認めてる事だしな。だから頼みに来たんだよ。お前の囲っている鬼の力を見越して。」

宇髄は鋭く不信な目を向けてくる冨岡の目をまっすぐ見つめ、言う。

「凛人を俺に貸せ。」
「なんだと?」

刀に手をかけ、居合を仕掛けてきそうな雰囲気の冨岡に宇髄が待ったをかける。
宇髄は両腕を上げ、自分は殺る気はないという意思表示を見せる。

「物騒なことしてくれるなよ。俺は頼みに来たって言ってるだろ?」
「そんな態度には見えんがな。」
「手厳しいな。頭でも下げろって?」
「何故凛人だ。他の隊士もいるだろう。」
「女隊士は昔から不足してるからな。」
「女だと…?」

刀の柄を握る手に力が篭る。
それを宇髄は横目に見て、交渉は決裂しそうだと内心思った。

「凛人に何をさせる気だ。」
「…潜入捜査だ。内側に入らないと情報を探りれないだろう。」
「まさかとは思うが宇髄、凛人に遊女の格好でもさせて潜入させようと考えているのか。」
「ご名答。」

冨岡は刀を引き抜き宇髄に一刀斬りかかる。それを宇髄は見越しており後ろへ飛んで避ける。

「凛人を女と知ってなお、性を使って鬼と戦わせようなど許すはずがない。消えろ。」
「…ああそうかよ。お堅い頭だな。」

宇髄は深追いせず、無理だと分かると潔くその場から姿を消した。
消えたのを確認して、冨岡は刀を鞘に戻し、何事もなかったような顔をして家に戻った。



宇髄が来た時のことを思い出して、もしやあの時凛人は話を聞いていたのか?と冨岡は思い当たり、吉原 遊郭へ進路を変えて走り出した。
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