□後日談
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「誠に申し訳ありませんでした。」

ことん、と鹿威しが座敷に鳴り響く。
胡座をかき腕を組んでいた煉獄は、目の前で土下座をして謝罪する凛人の頭を撫でた。

「あまり心配させないでくれ、気が気じゃなかったぞ。」
「…ごめんなさい。」

しゅん、と眉尻を下げて落ち込んでる姿に不覚にも可愛らしいなと思ってしまうが、ぽんぽんと頭を撫でるだけでその気持ちは胸にしまっておいた。

凛人が煉獄邸を突然訪れた。
その内容は、煉獄邸から冨岡の元へ向かう帰路の途中で何も言わず姿を消して心配させ、迷惑をかけたことを謝罪しに来たとのことだった。
煉獄の元へ行ってこいと言ったのは冨岡らしく、冨岡からも謝罪の文を凛人の手から受け取った。

「反省している姿も見て取れたし俺は特に何も言わん。冨岡にもこってり絞られたろう?」

そういうと、凛人は苦虫を噛み潰したような顔をして煉獄を見る。

「すごい怒ってるんだ。目も合わせてくれない。何度も謝っているのに。あんなに怒っているところを初めて見た。どうしたらいい?」

懇願するように聞いてくる凛人に、煉獄は「あー、」と空を見つめ顎を撫でた。
帰路についたはずの凛人が戻らない。
相当心配して探し回っただろうことが分かる。
一度ならず二度までも凛人が自分の前から姿を消す。
その恐怖に苛まれ苦痛を味わい、その反動でそのような態度を取っているのではないかと伺えた。
それこそ愛情の裏返しというやつだ。

対応が難しいな、と煉獄は唸った。
だがもう、ひたすらに誠意を見せて謝罪するしかないのではないかと思った。
そう凛人に言うと、「してるつもりなんだけどな…。」と凛人はぼそりと悲しげに言った。

「でも、鬼の気配がすれば私はたぶん勝手に体が動くと思う。実際に吉原の方面には禍々しい鬼気を感じたから、行かねばと思った。だから行った。それが悪い事か?
…と、義勇に聞いてみた。」
「…そしたら?」
「お前は分かってない、と一蹴された。」

肩を下げ頭を項垂れ更に落胆してしまった凛人を見て、うーん、とまた煉獄は唸った。
たぶん冨岡も言葉がまるで足りていない。
心底心配したのだと言えばいいのに。
それが凛人に上手く伝わっていないから空回りしているのだと分かった。

「凛人にも鎹鴉がついていれば何かあった時に知らせを出せるのにな。」

知らせがくれば冨岡も凛人の居場所が分かるし今回みたいな騒動は起こらなかったように思える。
だが、お館様の手解きを受けてはいけないと考えている凛人にとってはそれもまたよい案とも言えないという感じだった。

お館様の凛人への反応は肯定的だ。
ひたすらに会いたいとおっしゃられている。
悪いようにはしないと思えるのだが、凛人はひたすらに首を振るからこちらも強くは言えなくなる。


「まぁ何にしても、上弦の陸をやったそうじゃないか。十分な功績だ!」

肩を叩き快活に煉獄は評価するが、凛人はうーん、と腑に落ちない顔をする。

「私は特に何もしてないけど。」
「そうなのか?宇髄、竈門、我妻、嘴平が奮闘する中、凛人の登場が功を奏して上弦陸を倒したと聞いたが?」

首を傾げ聞く煉獄に、うーんとまた凛人は怪訝な顔をする。

「そんなことはない。もう少し早く着いていれば、皆あそこまで怪我をせずに済んだのになと思った。」
「またお前はそんなことを考えているのか。」

悲観的にものを考える凛人に対して、煉獄は眉をしかめ、こちらを向けと自分の方へ向かせる。

「毒にやられた宇髄と嘴平を、瓦礫に敷かれた我妻を助けて貢献したと聞いたが?」
「…詳しく知っているんだな。」
「まぁな。」

自身の鎹鴉に詳しく聞かせに行ったのを内緒にして、煉獄は続ける。

「何も鬼の首を斬ることだけが功績じゃない。凛人のお陰でまた人の命が救われたんだ。もっと誇りに思っていい。」

よくやった!
そう言って頭を撫でる煉獄に甘えて、凛人は撫でられ続けた。そして、目尻を下げ、ようやく凛人は口角を上げ笑った。

「杏寿郎は褒め上手だな。」
「本当の事を言ったまでだ。」
「千寿郎が杏寿郎を慕うのがよく分かる。」

にこにこと笑って行為に甘える姿を見て、杏寿郎も眦を下げてついつい撫で過ぎてしまう。

「凛人、冨岡に返信を書こうと思う。渡してくれるか?」
「勿論だ。」

煉獄は文机に向かい、紙に筆を走らせる。
凛人が背中から覗こうとすると、煉獄は待て待てと制して待たせる。
凛人は行儀よくちょこんと正座座りをしてそれを待った。
幼子のようにして背後で待つ凛人の視線を感じながら、煉獄は心穏やかにして返信を書いた。
筆を持つその手は右手だ。機能訓練のお陰でだんだんと麻痺が治ってきている。
左目がないため視野が狭まっているが、凛人との剣戟訓練のおかげで視野が狭い中での戦闘体制を確認し、気配察知能力も十分上がったように思える。
戦場復帰も近い、というところだった。

「さぁ出来たぞ。今日は訓練に付き合ってくれなくていい。早く帰って冨岡を安心させるといい。」
「…わかった。」

家に帰っても義勇は怒ったままなのだろう。
そう考えるとなんだか帰るのが億劫に感じてきた。
そんな凛人に気づいて、煉獄は一つくすりと笑うと、凛人の肩を叩く。

「冨岡を信じろ。大丈夫だから。」

そう言って煉獄は凛人の背を押し見送った。
凛人は煉獄の方を一回振り返り、そして冨岡の元へと走り出した。
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