□恋慕
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「おはよう。」

月明かりに照らされ起きると、隣で眠っていた凛人が先に起きていた。
着崩れた寝間着から見える白い肌や、なだらかな曲線美を見て、その姿はとても艶めかしく見えたし、自身がしてしまった先ほど致した行為を思い出して罪悪感でいっぱいになった。

あんなの、襲ったも同然じゃないか。

だが、凛人は「まだ寝てていいぞ。」なんて言って、何食わぬ顔をして笑いかけるのだ。







鱗滝さんから新しい弟子をとったと凛人を紹介された。
年齢も一緒だった凛人はすぐに俺や錆兎に馴染んで共に修行をして剣戟を学んでいたが、衣食住を共にしている中で男の格好をして男のように振舞っている凛人に違和感を感じるようになった。
錆兎にふと聞いてみても
「そんなの関係ない。凛人は凛人だろ?」とさらりと言われてしまって、確かになと自分も思ったからもう何も聞かなかった。
だけど、年月が経つにつれ、その違和感はどんどん強みを帯びていった。

錆兎がいなくなって、鬼殺隊に入隊して、二人で行動することが増えた。
錆兎の死を共有することによって、自分たちの距離はますます近くなったように思えた。
そして近くなればなるほど、凛人が大事だと思うほどに、何か今までと違う感情が芽生え始めてきていることに気づいた。
だけど見ないふりをした。
ひたすらに知らないふりをした。
男の振る舞いを続ける凛人にとってその感情は冒涜のように思えた。
この感情を凛人に気付かれれば自分から離れていってしまうような気がした。
ひたすらに奥にしまってなかったことにしようと考えた。

だけど五年前、俺の前から凛人が消えた時、凛人の存在の大きさを改めて痛感した。
そして五年の歳月を経て再開し、煉獄の隣にいる凛人を見た時、自分が今までひた隠しにしていた感情の名前を知った。

他の男の隣に連れ添って立つ凛人の姿を見て、胸の中で押さえ込んでいたどす黒い感情が芽を出して膨れ上がっていくのを感じた。
何故俺ではなく煉獄だったんだ。
凛人と共に歩んできたのは昔から俺だったのに。
何故俺以外の男に心を許している。凛人の体に気安く触れるな。笑いかけるな。俺たちにだけ向けていた表情だったはずなのに。

そう思っている自分に気づいた時、ひたすらに自分を醜く感じたし、絶望した。
俺は煉獄に嫉妬している。
そして、凛人と生活していくうちに、自分は凛人を女として認識し、恋慕の情を抱いているということにも気づいた。

こんなこと許されるはずがない。
家族も同然に関係を築いてきたはずなのに。
こんなに醜く汚れた感情を、凛人が受け入れてくれるはずがない。そう思っていたのに、

「義勇、私はお前を受け入れるよ。」

そういって、優しく抱擁してくれた凛人に涙が出そうになった。
凛人は俺が抱いていた醜く汚い感情を知っていたのだろうか。
凛人もまた見て見ぬ振りをしていてくれていたのだろうか。

凛人、許してほしい。
お前を愛してしまった俺を。

凛人を抱いている時、凛人を自分のものに出来たような気がした。
凛人はまるで抵抗しなかった。
俺の行為を甘んじて受け入れているように思えた。
それは何よりの至福のときであり、そして虚無感もあった。
凛人は慈悲の心で、俺に抱かれているのではないか。
凛人の感情は一体どこにあるのだろう。
本当は軽蔑しているのに、長年連れ添った仲という理由で受け入れただけではないのか。
そう思うと恐ろしく怖かった。



凛人が身支度を整えているのをぼんやりと見つめながら、冨岡は何も言えずに自責の念に苛まれているのだった。
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