□甘露寺蜜璃
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「あなたが凛人ちゃんね!すごくカッコいいのね!私、恋柱の甘露寺蜜璃!初めまして!」

会えてうれしー!と突然握手されぶんぶんと振り回す力は凄まじい。
甘露寺の勢いにたじたじとなっている凛人のことは露知らず、甘露寺はにこにこと笑顔を浮かべひたすらに上目遣いで見つめてる。

何故凛人と甘露寺が対峙することになったかというと、冨岡邸に突然恋柱である甘露寺蜜璃が訪ねてきたからだ。
「ごめんくださーい!冨岡さんはいらっしゃいますかー?」と扉の方から溌剌とした声が聞こえ、凛人は対応するか迷った。
丁度冨岡は情報収集がてら町の方に降りていて留守番を任されていたのだ。何故凛人は冨岡と行動せず留守番をしていたかというと、鬼の情報があればすぐに行動にうつしてしまう凛人を冨岡が危惧してのことだった。確かに頭より体を動かしがちではあるが全くの考えなしというわけではないのに何故そこまで心配されなければならないのだ義勇の癖に、本当に生意気になったなあいつは全く。と内心悪態を吐いていた時の来訪者が甘露寺蜜璃であった。
「冨岡さん?いないんですか?」と何度も戸を叩き呼びかけておりもしや緊急の用事かもしれない、と凛人は迷った末に気配を辿り危険な気配はしないなと確認した上で扉を開けて外を覗いた。
そこにはきょとんと驚いた顔をした可愛らしい女性が立っていた。
桜色の髪をおさげに結び髪先は緑色へ色が移ろっていて少し珍妙だがそれがまたとても似合っていた。
しのぶとはまた違う可愛らしさだな、なんて内心思っていると突然手を取られぶんぶんと振り回され冒頭に戻る。

何故私の名前を知っているのだろう、と疑問に思うのと共に、自身の名前をちゃん付けで呼ばれることなど男装を始めてから、いや、男装を始める前からもほとんどなく、全身に鳥肌が立ち寒気がした。
だがそんなの御構い無しに甘露寺は、
「凛人ちゃん一人だけ?お留守番してるの?」と聞いてくる。

「…義勇は今家にいない、何か急用なら私が聞くが…。」
「ううん!そんなことないの!近くを通りかかったから、そういえば冨岡さんの家が近くだったかな?と思って美味しいお団子をたくさん買ってきたの!良かったら一緒に食べない?」

たくさん、という形容は本当に合っていて、よく見ると両手いっぱいに団子の包みを抱えていて、こんなに買って食べるつもりなのか?と内心疑問に思いながら、立ち話もなんだなと家に上げた。

「突然お邪魔して、しかもお茶までご馳走してもらっちゃって悪いわ。あ!凛人ちゃんってお団子食べれるの?」
「…まぁ、それなりには。」
「良かったー!これで食べれなかったら本当に申し訳ないことしちゃったと思ったから。」

ふぅ、と胸をなでおろし嘆息する甘露寺を見て、最初はその勢いの凄まじさにどう接したら良いかと思っていたが、いい人なんだなと思った。
自身が鬼であることを分かっている。
だが、目の前の彼女はそんなこと気にせず屈託無く接してくれ、なんなら鬼である自分を気遣う言葉まで掛けてくれる。
そんな甘露寺と接して、凛人は自身の胸がぽかりと温かくなったように感じた。

「甘露寺、よければ私のことは名前で呼んでくれないだろうか。その…、ちゃん付けで呼ばれることに慣れてないんだ。」
「あ!ごめんなさい!もしかして嫌だった?」

そう言う甘露寺に、そんなことはない、と言いたかったが、心底嫌だったので中々返答出来ずにいると、甘露寺の顔がみるみる苦悶様になり涙目を浮かべ始め凛人は焦った。

「あ、いや。これには理由があって、その。甘露寺は悪くない。違うんだ。」

凛人がたじたじになり視線を右へ左へ落ち着きなく動かし、最終的にはとても申し訳ない顔をして溢れそうになる甘露寺の涙を指で拭い、「今まで男として生きてきたから。」とぼそりと呟いた。

「…え?もしかして、男の子なの?」
「いや、えっと。」
「冨岡さんとそういう仲だって聞いたから、女の人だと思って勘違いしてた、ごめんなさい!」

わーん!ととうとう泣き出し抱きついてくる甘露寺に凛人はその体を支えながら対応に困る。そして甘露寺の言葉にも驚いていた。

「そうよね、冨岡さんの相手なら女の人かなって決めつけちゃったけど、そんなことないわよね。今のご時世男同士でもおかしくないもの。私はその恋、全力で応援する!
勘違いしちゃってごめんね、凛人くん!」
「…甘露寺、待て。」

待ってくれ、と甘露寺の頬を掴みこちらを向かせて、よく喋る口を手で押さえる。

「理由があって人間の頃男装してたが、性別は女だ。今は鬼だから性別どうこうとあるのか分からないが、多分女だ。」

凛人がそう言うと、甘露寺はまた口を開けて何事かを言おうとしたが、その口を凛人が押さえる。

「義勇との事を誰に聞いたかは大体検討はつくが、あまり言いふらさないで欲しい。あいつは鬼殺隊の水柱だ。本当なら私と行動を共にするのもおかしい話だ。本当は離れた方がいいとも思っているが。」

そこまで言って、凛人は次の言葉が出てこない。
最近よく思っていた事だ。
鬼である自分は鬼殺隊を率いている義勇の傍にいる資格はない。
私は以前のように単独行動をするのが性に合ってる。
鬼を斬りながら鬼舞辻無惨の情報を仕入れて奴を倒すことだけを考えていればそれでいい。
そう思うのに、義勇への恋慕を気づいてしまってから、自分の感情がどんどん強まっていくのを感じていた。
離れた方がいいと思うのに、それが出来ない。
傍にいたい、傍で義勇と共に戦いたい。義勇を守りたい。
そう思っている自分に、内心戸惑いどうしたらいいか悩んでいた。

苦悶の表情へと変わった凛人に甘露寺も気づいて、甘露寺も眉尻を下げて悲しそうな顔をする。そして、口元を押さえられていた凛人の手を握り、甘露寺は凛人に顔をずいっと近づけた。

「私でよければ恋愛相談乗るよ!」
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