カラ松恋愛事変

□女神?天使?
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「そんなことがあったんですね。」

しゃくりあげながら事の詳細を話した。
支離滅裂だっただろう俺の話を、彼女は一つ一つ相槌を打って聞いてくれ、理解してくれた。
出る涙も出尽くして、カラ松はしばらく放心状態になっていた。
そして気づく、カラ松ガールの前でなんて失態をしてしまったのだろう。

さーと血の気が引くが、いつもされる冷たい反応を目の前の彼女は一切しなくて、いつものかっこつけも本領発揮できず、気が抜けてしまう。

「兄弟は何人いるんですか?」
「…5人」
「5人もいらっしゃるんですね」
「しかも俺たち、六つ子なんだ。」
「六つ子…」
「俺があいつで、俺たちが俺。」

顔も背格好も、そっくりだが、中身は成長するにつれて個性に分かれていった。

「いつも6人一緒に行動してた。」

いつも一緒だった。
今もそうだが、昔とは変わった。
人は誰しも成長する。
もうあの兄弟に、俺はいらないのだろうか。

そう考えると、もう涙は出ないはずなのに、また一つぽろりと頬に涙が伝った。

「どんな人たちですか?」
「え?」
「5人も兄弟がいるんですよね、私にも二人姉がいて、すごく煩いんです。
私が末っ子だから色々口出ししてきて…嫌だなーと思うんですけど、でもすごく頼りになるところもあって、
兄弟とか姉妹って、難しいですよね。」

難しい…
確かにそうかもしれない。
こうして仲間はずれのようにされて、とても寂しいと、薄情だと感じるときもあるが、

「…おそ松兄さんは、とても頼りになる。俺の唯一の兄貴だ。
チョロ松は、頼りない俺の代わりにみんなを引っ張ってくれて、尊敬してる。
一松は、俺には厳しく当たるところもあるが、心優しくて可愛い弟だ。
十四松は、少し突拍子な所があって、びっくりするときもあるが、兄さんと慕ってくれて、遊ぶと楽しい。
トド松は末っ子で、甘え上手で、兄弟の空気を読むのが上手くて立ち回ってくれる。」

そんな騒がしくも楽しい兄弟達が、

「俺は大好きなんだ。」

何があったとしても、なんだかんだと面倒をみてしまうし、頼ってしまうし、そばにいたくなる。
兄弟というのは、とても暖かくて、居心地がいいものなのだ。
そう考えると、無性にみんなに会いたくなってしまった。

すこし帰ることに臆病になってしまっていたが、いつも通り、おかえり、と言ってくれるとか信じてみたいと思った。

「兄弟とか、姉妹とか、なんだかんだいいものなんですよね。」
「ああ…」
「日も暮れてきましたね。」
「そうだな。」

先ほどまで綺麗な夕日が顔を覗かせていたが、もうすっかり身を潜めて、辺りは暗くなっていた。
ベンチの横に立つ街灯だけが、俺たちを照らしていた。

「今頃、兄弟の皆さん、あなたのことを探してるかもしれないですよ。」
「そうだろうか。」
「なんだかんだいっても、血を分けた兄弟ですもん。心配になりますよ。」
「そうだといいんだが、」
「そうじゃなかったら、私が許しません。」

そう言ってこちらを見ていたずらに笑う姿は、やっぱりとても可愛らしくて、また、顔に熱が集まっていくのを感じた。

「そ、そういえば、カラ松ガールの名前を聞いていなかった。
もしよければ、俺に君の可憐な名前を教えてはくれないだろうか。」

さわさわと木をさざめく風の音が、彼女の声をかき消さないように、集中する。
言葉ではかっこつけてはいるが、表情はとても必死で、とても、カッコ悪く見えているに違いない。
それでも、カラ松はいま、横に座っている彼女の名前がどうしても知りたかった。
どうしてもこの類稀なる縁を繋ぎとめておきたかった。
また、会うために。
この日が最後とならないように。

「……時雨。」
「時雨。」
「そう、あなたの名前は?」
「カラ松、カラ松だ!」
「カラ松さん、そういえば私たち、名前も知らなかったんですね。」

辺りは真っ暗になり、女の子の一人歩きは危ない時間になってきた。
でも、まだ話していたい。
この、時雨と一緒にいる時間が永遠に続けばいい。
そう、カラ松は、時雨の変わる表情や仕草を見て、切に願っていた。

「可憐な名前だ…」
「カラ松さんって、やっぱり面白い人ですね。そういえば、カラ松ガールってなんですか?」
「いや、その。」

突然カラ松ガールの言葉の意味を聞かれてしまい、戸惑ってしまう。
戸惑っていると、隣から彼女のくすくすと笑っている声が聞こえて、胸がくすぐったかった。

二人で笑いあっていると、遠くから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
その声は、チョロ松や、おそ松兄さん、トド松と兄弟たちの声が四方から聞こえた。

「やっぱり、カラ松さんのこと探してるみたいですよ?」
「……みんな。」

嬉しくて、また涙が出そうになっていると、またハンカチを差し出される。

「これ…」
「あげます、使ってください。」

そういってハンカチを手渡すと、時雨はベンチから立って歩き出していってしまう。

「時雨!…さん。」
「時雨でいいですよ。」
「時雨!まだ、礼をしてない!今日は君にいろいろ助けてもらったから、礼をしたい。
ど、どうすればいい…?」

去る女に泣きつく男のように、カラ松は時雨に縋る。
カラ松の体が傷だらけで無かったなら、確かに彼は彼女の腕を取り体にしがみついていたかもしれない。
そんな必死な様子のカラ松を見て、時雨は一つ笑って振り向いた。

「私が落ち込んだ時は、カラ松さんが話を聞いてくれますか?」
「…話を?」
「そう!また、ここでお話ししましょう?」

そういって、時雨はカラ松に手を振ってこの場を去って行ってしまった。
その後ろ姿が見えなくなるまで、カラ松はその姿を目で追っていた。

本当に、天使か女神の類だったのではないか。

胸の中に燻る熱い思いを消化しきれぬまま、兄弟たちが見つけてくれるまでカラ松は時雨が去った方向をずっと見つめていた。





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