カラ松恋愛事変

□異変
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いつもと変わらない日常が戻ってきた。
いつもと変わらない、六人での日常。

でも、カラ松はそんな日常に物足りなさを感じていた。
カラ松は時雨に会うために何度かあの橋の上に立ち寄ったが、一度として会うことはなかった。

やはり混沌の地に舞い降りた天使か女神だったのか?と思うが、時雨は確かに、自分の目の前に座って、肉まんを食べて、ハンカチを渡してくれたのだ。
幻とは思いたくない。

時雨という名前しか分からない女性に会うために、今日もカラ松は服装を決めて自身のベストプレイスに向かう。
愛用のサングラスも忘れずに。

橋の上でいつものようにカラ松は佇む。
だが、カラ松ガールズ達から声がかかってくるのを待ち、変質者のように女性をちらちらと覗き見るカラ松はそこにはいなかった。
ひたすらに誰かを待ち、佇むカラ松がそこにいた。
その姿に、そばを歩く女性は振り返る。
喋らなければ中々様になっている男であるのだが、当の本人は気づいていない。

「今日もいない、かぁ。」
「あの…」

自分に呼びかけられた声にすごい勢いで振り返る。
だがそこに立っていたのは、時雨ではない。
頬を赤らめそわそわとした二人組の女性だった。

「誰か待ってるんですか?」
「もしよかったら、ご飯でも一緒にしませんか?」

突然の女性からの誘われるランチに、カラ松はピシリと身を固める。

カラ松ガールズからご飯に誘われた!!

一瞬高揚感に身を包まれるが、ちらりと思い浮かぶのは、紛れも無い時雨の姿で。

「すまない、ガールズ。人を、待っているんだ…。」

申し訳なさそうに謝るカラ松に、女性たちも何も言えなくなってしまう。

「それなら、しょうがないですね。」

そういって後ろを気にしながら、女性二人組はカラ松の前から去っていった。

いつもならキザな言葉の一つや二つでも囁いて、きも…うざ…などと嬲られ一人で傷つくのがカラ松のいつもの光景だが、明らかにカラ松の中で変化は起こっていた。


そんな光景を覗く人影が、一つ、いや二つ。


「な!あいつ絶対おかしいよ!女の子の誘い断ったぜ?!ありえねーよな!
顔一緒だから俺じゃダメかな?セッ⚫︎スしてくれないかな?」
「本当にクズだな兄さんは!絶対ダメに決まってるだろ!」
「えーなんでー、」
「それよりも、カラ松だよ。確かに兄さんのいう通り、おかしいね。」
「だろ?」

カラ松を心配して(面白がって)跡をつけていたおそ松とチョロ松が、壁から顔を覗かせカラ松の様子を探る。

「一体誰を待ってるんだろう。」
「…女かな?」
「え?!カラ松に限ってそんな…」

そんな訳ない。
そう続くはずの言葉も、物思いに耽り川を眺めるカラ松の姿を見てしまえば、あり得ないという文字も半信半疑になる。
その場に沈黙が立ち込める中、おそ松がその場から離れる。

「兄さん、どこ行くの?」
「決まってるだろー?」

何かいい考えでも思いついたのだろうか。
そう期待の眼差しで自身の兄を見つめるが、すぐに後悔することになる。

「さっきのかわいこちゃん二人を追うんだよ!今からならまだ間に合うかもしれないだろー?」
「おいー!!結局カラ松より女を取るのか兄さんは!」
「え?当たり前だろ?」

そう言って何か悪いこと言ったか?というように純粋無垢にそう宣言する自身の兄に、チョロ松は呆れてしまう。

「俺はあいつで、俺たちは俺。今から誘えば絶対一緒にご飯行ってくれるって!しかも二対ニの方が話し盛り上がるだろう?」
「でもカラ松が…」
「ずっと待ってるけど、誰も来ないじゃん。俺たちがここにいてもなんも変わんねーよ。
それよりも珍しく声かけられた女の子達を追いかける方が先決だろー?」
「えー、でも。」
「じゃあチョロ松はここにいろよ、俺は行く!そしてセッ⚫︎スしてやる!」
「ちょ、おそ松兄さん?!兄弟から性犯罪者は出したくないんだけどー?!」

おそ松兄さんの愚行を止められるのは俺しかいない。
前を走っていくおそ松を、後ろ髪を引かれる思いでチョロ松が追いかけていく。


そんな、自身の兄貴と弟が自分を監視していたとも知らず、カラ松は、ただ一人の女性が来るのを待っていた。


それは夕日が川に落ち、夜の静けさが襲うまで、ずっと、ずっと待っていた。








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