カラ松恋愛事変

□カラ松、風邪引いたってよ
4ページ/12ページ





「カラ松、寝てたろ?」

カラ松くんが寝ている部屋から静かに出て居間に戻ってきた時、一番に声をかけたのはおそ松くんだった。

「うん、一回起きて、そのまますぐ寝ちゃった」
「カラ松、結構辛そうだよな。朝とかも吐いたりしてたし」
「そんなに…」

熱にうなされ荒くなった息
潤み、ぼんやりとした目
火照った体に滴る汗

カラ松くんが体調が悪いことは一目瞭然だった。
いつも自分の前では、妙にカッコつけていて、でも打たれ弱くて泣き虫いじけ虫だから、
私がお見舞いに来たら辛いんだ…と頼ってくれるもんだとばかり思っていた。

でもカラ松くんは違った。
熱にうなされながら、それでもすぐに私のことを考えてくれた。
弱っててもなお、人を思いやれる優しいカラ松の姿を思い出して、時雨は手に持つ氷嚢を握りしめた。
それを見たおそ松が、座っていた腰を上げる。

「それ、氷入れないとな。」
「…うん。」

おそ松に続いて、時雨もその後ろをついていく。

ちらりと横を見ると、部屋の隅で自分をここまで連れてきてくれた一松は体操座りをして蹲っていた。
カラ松が眠る部屋の近くで…。

「時雨、こっち。」
「うん。」

一松の方を向いていた視線を戻して、おそ松についていく。
キッチンに入ると手を差し伸ばされて、手に持っていた氷嚢を渡す。
すると、おそ松は手際よく氷と水を適量入れる。
その手際の良さや、カラ松の様子を分かっていたことから、
彼を看病していたのは、おそ松くんなのだろうと思った。

「ねぇおそ松くん。これ買ってきたから、カラ松くんが食べれる時に食べさせてくれるかな?」
「ん?」

そういっておそ松に自分が持っていた、先ほど一松と一緒に買ってきた見舞いの品を渡すと、おそ松はその中を見て、おお…!と感嘆の声を漏らす。

「うまそー!」
「カラ松くんに!食べさせてね。」
「分かってるよ、カラ松くんに!だろ?」

にやりと笑って言うおそ松を見て、何故だか恥ずかしくなってしまい視線をそらす。

「わざわざ見舞いに来る仲だもんな。」

そう言って突然肩を組まれて、時雨は驚いて少し体をびくつかせる。
そんな時雨の反応をみて、おそ松はさらに笑みを濃くする。

「あーあ、いーなー、俺のこと一番に心配してくれるかわいーい女友達欲しいなー」
「可愛くないけど、おそ松くんが風邪引いたら、お見舞いに来ようか?」
「え?俺が風邪引いた時も来てくれんの?」

そういって顔を覗きこみながら聞くおそ松に、時雨はこくりと頷く。

「いいよ。」

そう言うと、おそ松は一瞬驚いたような顔をしながらも、すぐに思案顔をして、組んでいた肩をパッ離した。

「んー、やっぱいーや。」

カラ松怒らせたくないし、おそ松は小さな声でぼそりと呟くと、氷嚢を持って先にキッチンを出て行く。
その後ろを、時雨も少し戸惑いながらついていく。

「カラ松くんそんなことで怒らないと思うけど?」
「どうかな〜」
「どういう意味?」

時雨がおそ松の言っている意図が掴めず首を傾げていると、おそ松はぴたりと歩みを止めて、くるりと時雨の方に向き直った。

「じゃあさ!俺が風邪引いたら、添い寝コースつけてくれる?」

突然向き直ったおそ松に、何を言いだすかのかと身を固めていたが、満面の笑みでよく分からないことを言い出したおそ松に、
時雨は眉間にしわを寄せながら、

「コースなんてつきません」

そうバサリととおそ松の要望を切り捨てた。

「えー!別にお触りコースつけろって言ってるわけじゃないんだからさ〜」

いーじゃん添い寝ぐらい!と言いながら手に持つ氷嚢を振って手足をバタバタさせるおそ松をみて、呆れた眼差しを向ける。

まるで子供が駄々を捏ねているようだ。

「おそ松くんは可愛い女友達にしてもらいたいんでしょ?」
「時雨でもいいよ、女であることに変わりないしー」
「おいこら。」

ついには手を叩いて、そーいーね!そーいーね!とコールまでし始めてしまったおそ松を見て、時雨は目を彷徨わせて困り果てる。
言動も行動も適当そうに見えるが、しっかり長男らしく弟の面倒を見ていたのかな、とおそ松の行動に好感を持っていたのだが、
一変して成人男性とは思えない幼稚な行動を見せられ、戸惑う。

戸惑い反応に困り果てていた時、突然おそ松が時雨の後ろの方を見て、げっと声を上げ顔を顰めた。
なんだろう、と不思議に思い時雨が後ろを向くと、そこには腕を組み眉間に皺を寄せてご立腹の様子のチョロ松の姿があった。

「何してんの、おそ松兄さん。」

そう言い放つチョロ松の声はいつもよりも低くドスがきいていて、少しぶるりと体が震えてしまう。
そんな時雨の気持ちを汲んでか、顔を顰めておそ松を見ていたチョロ松は、時雨の方を向くとすぐに一変してにこりと優しい笑顔で微笑んだ。

「時雨さん、こんにちは。今日はどうしたんですか?
もしかして、カラ松兄さんのお見舞いに?」
「はい、そうなんです。突然お邪魔してすみません。」
「いいんですよ!時雨さんなら大歓迎です!」

そう時雨に笑いかけたかと思うと、おそ松の方に近づき、その手に持つ氷嚢をぶん捕る。

「カラ松兄さんは向こうで寝てるので、一緒に行きましょう。」
「は、はい…」

おそ松に向けるものと違ったチョロ松の横顔を見ながら、
おそ松は「お前、誰?」と若干引いた目でチョロ松を見る。
だが、チョロ松はそんなおそ松には目もくれず、時雨と一緒に居間の方に向かう。

「おーい、チョロ松。何俺のこと無視してんだよ。」

なぁなぁ、と後ろから声をかけるが、チョロ松はそれも無視して時雨を居間の中に入れ、そしておそ松が入る前に襖をパタンと閉めてしまう。

ポツンと取り残されたおそ松は、思わず呆然としてしまう。

「え…ちょっと酷くない?」

俺が何したっていうの?
居間から締め出されたことに虚しさを感じ、そして沸々と湧き上がる怒りのまま、
襖を勢いよく開け、足音をどすどすと大きく立てて、居間の中へと入った。


「俺が何したっていうんだよごらぁー!」


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ