カラ松恋愛事変

□カラ松の葛藤
2ページ/5ページ




「へぇ…飽きた…一松くんは飽きたのね、私に。」
「時雨、違うぞ。ほら、一松は、気まぐれなところがあるから。」

はは、はは…と首をもたげて空笑いする時雨に、カラ松は慌てて弁解する。
だが時すでに遅し。
頭空っぽと謳われるカラ松はオブラートに包まずそのまま伝えてしまい、時雨は胸に鉛玉を食らったようにズガーン!と衝撃を受け、柄にもなく落ち込んでしまっていた。

「まぁね?元からそんなに仲がいいとかそういうわけではなかったけど、少しは仲良くなれたかな?なんて思ってたりもしてた訳で、
私の一方通行だったのかな?
そうだよね、気まぐれな一松くんだもん、私のことなんて…」

ぶつぶつと呟き始めた時雨を、カラ松は心配そうに見つめる。
こんなにショックを受けてしまうなんて思ってなかった。
俺はいけないことをしてしまったな。
無理やりにでも一松を連れてきた方が良かっただろうか?

そこまで考えた時、カラ松はツキン…と胸が痛むのを感じた。

俺じゃダメなのか…?
ふとそんなことを思ってしまった自分に自分でギョッとする。

今何を考えていたんだ俺は…。
時雨が一松のことを考えている姿を見ると、胸が一際痛んで、その痛む胸の隙間からどんどんと汚い感情が湧き上がってしまいそうになる。
燻る熱情が、カラ松の感情をどんどんと埋め尽くしていく。
何故こんな感情を抱いてしまうのか、カラ松には分からなくて、たまらなく怖くなった。
痛む胸を和らげたくて手を当て抑えていると、突然時雨に顔を覗き込まれて体をびくりと跳ねさせる。

「ねぇカラ松くん聞いてた?」
「……っ、なんだ?時雨」

自分が何を思っていたのかなんてまるで知らない時雨は、俺のことを澄んだ瞳で見つめてくる。
そんな時雨の顔を見てまたドキドキと胸が高鳴って、胸が、熱い…。
隠さなければ、こんな感情。
だって、嫌われたくないから。

すぅ…と静かに息を吸って、カラ松がなんとか気丈に振舞うと、
カラ松の顔を覗き込んでいた時雨の顔がみるみる内に笑顔になり、
そのまま勢いよくベンチから立ち上がる。

「折角カラ松くんの風邪が治ったんだもん!快気祝いしようよ!」
「快気祝い…?」

カラ松が首を傾げて見上げると、時雨はカラ松の正面に立ち、その腕を掴み立ち上がらせる。

「美味しいものでも食べに行こう!」

折角二人っきりだしね!
そう言って悪戯に笑う時雨に腕を引かれ、カラ松も歩き出す。

「二人っきり…」
「そうそう!美味しいもの食べて、めい一杯遊んで、今日来なかった一松くんに自慢しよ!」


ツキン…ツキン…
ああ、まただ。
なんでこんなにも、時雨の口から出てくる一松の名前に反応してしまうのだろう。

時雨の背中を見ながら、カラ松は胸に燻る気持ちをなんとか耐えて、時雨の腕に引かれていった。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ