カラ松恋愛事変

□カラ松の葛藤
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時雨に腕を引かれながら、どんどん歩いて行く。
どこに向かっているのかは分からない。
けど、時雨と一緒にいるというだけで、胸が高揚して、楽しくてたまらない。





「ねぇカラ松くんって音楽とか聞くの?」
「ああ!なんといっても、俺のソウルシンガーは、オザキだな。」
「オザキって、あの尾崎?」

途中で立ち寄ったCDのレンタルショップにて、中を物色していたカラ松が一枚のCDを取り出す。

「最高にイカした、熱くて震えるメロディーを奏でてくれる。ファン一人一人に魂の底から語りかけてくれる。
そんなオザキが好きなんだ。」

カラ松が取り出したCDを時雨が受け取り、裏表面を見る。

「15の夜とか歌ってるよね?」
「知ってるのか?」

ご自由に、と書かれた機械の中にCDを入れて、時雨がイヤフォンをして聴き始める。

「有名なのはね!わー、久々に聞いたな。」

音楽に合わせてフンフンと鼻歌を歌う時雨。
その顔は、とても楽しそうだ。
そんな時雨を見て、カラ松は自分の胸がきゅう…と締め付けられるような感覚を感じていた。
時雨が、俺が敬愛するオザキの曲を聞いている。
それだけなのに、妙に高揚している自分がいた。

「何の曲聞いてるんだ?」

そうカラ松が時雨に聞くが、イヤフォンをつけている時雨には全く聞こえていない。

家にオザキの曲はMDプレイヤーに全て入れてあるが、自分が敬愛しているオザキの曲。
どんどんと聞きたくなって体がうずうずしてきてしまい、聞いている時雨のイヤフォンの近くに耳を寄せる。
すると、時雨も気づいたのか、イヤホンの片方を裏面にしてくれ、カラ松に近づけてくれる。

「カラ松くん、この曲よく鼻歌で歌ってるよね?」
「そうだったか?」
「うん。私、カラ松くんの歌声も好きだよ。」

好きだよ。
その言葉にカラ松の心臓がどきりと一際大きくなる。
耳から流れてくるのは、俺の青春の一曲で、愛して止まない一曲のはずだ。
なのに、カラ松は曲に集中できなかった。

心臓がバクバクとうるさい。
何とはなしに言ったのだということ、深い理由はないのだということも自分でもわかっている。
分かっているが、何故こんなにも胸が苦しくて、顔も火照って仕方ないのだろう。
また風邪がぶり返してしまったのだろうか、なんて思いながらカラ松は曲に集中しようと瞼を閉じた。


高ぶる胸に知らんぷりをして、時雨とともに曲に聞き入っていると、いつの間にか一曲丸々聞いてしまっていた。

ああ、やはりオザキの曲は最高だ。
愛してる。

じーん…とカラ松が曲の余韻に浸っていると、イヤフォンを外した時雨がカラ松の方を振り向く。

「そういえばね、この前息子さんのニュースみたよ。
歌も歌ってて、お父さんに声がそっくりで、やっぱり親子なんだなーって思ったよ。」
「息子か…、オザキのソウルが受け継がれている。それだけで俺は満足だ。
音楽活動をするというなら、リトルサンにも頑張ってもらいたいな。」

カラ松がそう言うと、時雨は微笑を浮かべながら今まで聞いていたCDを元の棚にへと戻した。

「カラ松くん、他に好きな歌手とか、曲とかある?」
「そうだなぁ…」

時雨にそう聞かれ、カラ松が、んー、と首を傾げながら腕を組み、棚に散りばめられた他のCDに視線をうつしていると、
時雨がにこにこと可愛らしい笑顔でこちらを見つめているのに気づいた。

俺の顔に何かついているのだろうか。
そう思いながらも、時雨に見つめられるこの状況がなんだか照れくさくて、頬をかきながら少し視線をずらす。

「どうしたんだ?時雨。そんなに見つめて…」
「あ、ごめん。」
「いや、謝らないでくれ。ただ少し、照れくさかっただけなんだ。」

カラ松がはにかみながらそう言うと、時雨もみるみる頬を染めて、顔を背ける。

「なんかね、カラ松くん、風邪治ったんだなーと思ったら、すごく嬉しくなっちゃって。
この前はすごく苦しそうだったから…
それで、えーと…」

言葉を詰まらせながらそう言うと、「ごめん!なんでもない!」と言ってCDに視線をうつす。

でも、その横顔は、耳まで真っ赤っかになっている。

そんな時雨を見て、カラ松は無性にその小さな体をこの胸に抱きしめてしまいたくなった。



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