カラ松恋愛事変

□カラ松の葛藤
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ああ、俺はどうしてしまったんだろう。
なんでこんなにも、時雨に触れたくてたまらないのだろう。
こんな気持ちを抱いている自分が、なんだか怖い。
ただ隣を歩いているだけなのに、その無防備に揺られた白魚のような手を掴みたくなる。
道行く人に当たりそうになるその細腰を引き寄せて抱きしめていたくなる。
そんな気持ちが抑えられなくなりそうになる時が時折あって、たまらなく苦しい。

俺は、時雨の隣にいれるだけで、ただそれだけを望んでいたはずだったのに…。

俺は今までどうやって時雨の隣に立っていたっけ…?











お待たせしました、と一声かかり、机上に皿が二枚置かれる。
その上には、時雨が食べたいと言っていたパンケーキが乗っていた。

「これだよこれ!食べたかったんだぁ…!」

そのパンケーキを見つめる時雨の瞳はとてもキラキラと輝いていて、その姿はまるで無邪気な子供のようだった。

「見てカラ松くん、ふわふわだよ、イチゴどっさりだよ。美味しそう…」

フォークを持ちいただきます、と律儀に挨拶をしたかと思えば、造形が綺麗だからかどこから食べようか迷い始めている。
どこから食べても一緒だと思うのだが…。
そう思いながら、時雨が食べ始めるまでカラ松も待つ。

前から思っていたが、時雨は本当にころころ表情を変える。
それも、笑顔のレパートリーがとにかく多い。
こうして目の前のパンケーキを見て興奮している表情、
どこから食べようか迷いながらもパンケーキを食べれることへの嬉しさを隠しきれていない表情。
そして、

「……美味しい。」

パンケーキを一口食べて、その美味しさに蕩けたように笑う、時雨の表情。
どの笑顔も、本当に可愛らしいと思った。

「時雨は、本当に美味しそうに食べるな。」
「本当に美味しいからだよ!カラ松くんも食べてみなよ!美味しいから!」

ほらほら!と時雨に急かされて、まだ手をつけていなかった自分の目の前に置かれたホットケーキを一口食べてみる。

あ…なんだこれはめちゃくちゃ美味い!
なんだこのふわふわ食感は舌が包み込まれるまるで純白の翼に包み込まれてしまったようだ…!美味い…!

カラ松がホットケーキを口に入れながら美味しさに耐えていると、目の前に座っていた時雨が途端に笑い始めた。

「カラ松くんだって、すごく美味しそうに食べてるよ!今のは絶対私以上だね!」

あはは!と声を大にして笑う時雨に、カラ松はきょとんとした顔を見せて、そして次の瞬間にはぶわぶわと顔に熱を集めて下を向いた。

「ふっ、そんなことないぞ?時雨の笑顔には敵わないぜ?」
「今更かっこつけても意味ないよ?」

くすくすと未だに笑っている時雨を見て、かっこつけるため額に当てていた手を下ろしてカラ松は黙々とホットケーキを食べる。

やっぱり、時雨の前だとなんでか上手くキマらないんだよな…。

ちらりと時雨の方を見ると、時雨もホットケーキに舌鼓を打ち、その美味しさを表情で表していた。

「美味しいね、カラ松くん」

そう満面の笑みで言う時雨を見て、カラ松は心から思う。


ああ、俺は、時雨の笑顔が好きなんだ。


どんなときも、何をしていても、時雨は俺に優しく笑いかけてくれる。
俺のことを、温かく包み込んでくれる。
そんな時雨の笑顔に、俺は何度も救われてきたんだ。
だから、俺は、俺の隣で笑っていてくれる時雨の存在を大事にしなくてはいけないと思ったんだ。

今抱えているこの燻った熱情は、時雨に気付かれてはいけない。
こんな黒くて汚くて禍々しいものに触れさせるわけにはいかない。

純白の天使を、地に貶めてはいけない。

それは何より、時雨のことが大事だから。



カラ松は、ゆっくりと瞼を閉じて微笑んだ。
そして、時雨への思いを胸の奥深くにへと閉じ込めた。


「今度は、一松も入れて、三人で一緒に来るか」
「一松くんも…?」
「ああ、一松も甘いものが好きだからな。きっと喜ぶ。」



そう言って笑ったカラ松を見て、やっぱり兄弟のことが大好きなんだなと時雨は思った。

今日はカラ松くんの全快祝い!と豪語しながら、ただカラ松と一緒に美味しいものを食べたり、遊びに行きたかっただけだった。
そしてそのカラ松くん全快祝い!の理由に自分のことを飽きた…と呟いた一松くんへの当てつけも少し込めていた。

でも、そんなことを考えていた自分とは違って、カラ松くんは、次は一松も一緒に…と嬉しそうに笑って言った。
そんな兄弟想いなカラ松の事を時雨は高く評価していたし、そんな優しいカラ松のことが、大好きだった。

だから、時雨は「そうだね!」と満面の笑みでカラ松にそう言った。


カラ松が何を考えているかも知らずに、無邪気に笑いかけた。




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