カラ松恋愛事変

□松野家長男 松野おそ松
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「やっほ〜!時雨!」

突然呼び止められて足を止める。
隣に向けていた視線を声がした方に向けると、真っ赤なパーカーを来て、見覚えのあるその顔つきは無邪気な子供のようだ。

「えと…」
「おそ松でーす!」

おそ松くんかな?と考えていると迷っている私に気づいたのか自分から自己紹介される。

「今ちょっと時間ある?なんか暇でさ。やる事なくてぶらぶらしてたとこ。」

そう言うと目の前にいたおそ松くんが隣に回って肩を組んでくる。

「俺さ、そろそろ運が向いてきたんだよね〜、
昨日競馬勝ったし、さっきパチで勝ったばかりだし、」

勝ったことを思い出したのか、肩を震わせ嬉しそうに笑うおそ松くんの声が耳元から聞こえてくる。

「そんなわけで、デートするなら今がチャンスだぜ?俺と会えてラッキーだろ?」

ラッキーか?と突然問われても、突然のことで頭が回らない。
隣に立ってる伊藤君は私とおそ松くんを見て呆然としてしまっているし、
えーと、どうすればいいのかな?

「さぁ!時雨は何が欲しい?」

首を傾げて聞いてくる様は、トド松くんとはまた違った、「あざとさ」を感じた。
その「あざとさ」と一緒に、なんというか、断れない雰囲気というか、妙な説得力というか、押され負けするというか、そんなようなものを感じて、
「う、うーん…」と困った返答しか返すことができなかった。
すると、おそ松くんは私に向けていた視線を横にずらして、隣で立っている伊藤君の方に顔を向ける。

「あれ?連れがいる感じ?しかも男!!!」

男!という単語をえらく強調して言ったおそ松くんに、私の心臓は驚いてしまい変に鼓動を早める。

「何なに?!どういうこと?時雨俺のこと騙したの?!」

どういうこと?騙した?
おそ松くんの口から出てくる理解できない単語に頭がついていかない。
でも、あまりの勢いに思わず、組んでいた肩を外して一歩身を引く。

「俺、時雨のこと信じてたのに…」
「えっと…おそ松くん?」
「俺のこと愛してるって言ってくれたのに!」

そう言ったかと思うと自分の目の前でわーんわーん!と嘘泣きを始めるおそ松に、時雨は呆然としてしまう。

これは、なんだ。
ドッキリ?
何が一体どうなってるんだ?
周りから注目を浴びながら時雨が直立不動で呆然としていると、時雨の隣に立っていた伊藤が「あの…」と声を掛けた。

「取り込み中なら、俺、捌けましょうか?」
「ああ、いや。えと。多分大丈夫ちょっと待ってね。」

そう言うと、時雨はおそ松に近寄る。

おそ松と時雨の2人を固唾を飲んで見守っていた伊藤は、次の瞬間目を剥くことになる。

「何を勘違いしてるんじゃい!!!」

温厚で気さくで優しいと評判の先輩が、突然目の前に現れた男の頭をひっぱたいたからだ。

「いってー!何すんだよ!」
「それはこっちの台詞だよ!驚きすぎて今まで出したことない声が出たよおバカ!」
「俺もそんな時雨の声聞いたことないよこの一瞬で何があったの?」
「それはこっちの台詞だってば!!いつ私がおそ松くんを騙したのよ!」
「愛してるって言ってくれたのに…」
「だから!それ!どういうことなの?!」

わーわー!と言い合う二人の姿に、伊藤は仲裁に入ったほうがいいのか、
それとも余計ややこしくしないようにこのまま見守っていた方がいいのか考えあぐねていた。

うーん…と冷や汗を垂らしながら並行していると、突然目の前の男性にこちらを指差されて体をビクつかせる。

「こいつ、時雨の彼氏なんだろ?!」

そう言った瞬間、体を固まらせる。
あ、これは勘違いをされてるんだ。
先輩に申し訳ないことをしてしまったな…どうしよう。

心臓をどきどきさせながら、バイトの買い物の調達に付き合ってくれた、優しくて敬愛している先輩に目を向けると、
そこには顔を真っ赤にさせて何かに耐えている時雨先輩の姿があった。

「伊藤君は!!バイトの後輩です!!」



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