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□竈門炭治郎
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建物内を鞠が縦横無尽に攻撃し破壊していく。
その鞠を操っているのは、鬼であった。
それに対峙しているのは、鬼殺隊隊士、竈門炭治郎であり、修行し、習得した水の呼吸を使い、鞠を切っていく。
竈門炭二郎は、鎹鴉の要請で浅草に来ていた。そんな時、自身の宿敵である鬼舞辻無惨の匂いを嗅ぎつけ接触し、人とともにいる無惨に衝撃を受けていた。
その首を斬らねばと思った時、鬼舞辻無惨によって人が鬼にされ、鬼から通行人を守っていると、珠世、兪四郎に出会い助けられ、縁もあって珠世の邸宅に来ていた。
珠世の、鬼を人に戻すための薬についての話を聞いていた時、無惨から命令を下された鬼から襲撃を受けていた。
炭治郎は、選抜の時に対峙した鬼よりも回復が早い、手強い鬼に、内心焦っていた。
自分はこの鬼を倒せるのだろうか、と。
だが、自身の妹、禰豆子を人間に戻してやるために、戦って勝たなければならない!
強い思いを胸に、炭治郎は矢印を繰り出す鬼に挑んでいた。
だが、何遍もの矢印に翻弄されてしまう。
自身も技を出して攻撃の衝撃を緩和させているが、これでは攻撃に転じることが出来ない。
しかも、こんなに連続して技を出したこともない炭治郎にとっては、呼吸も上手く紡げず、体も疲弊してボロボロになってきていた。
ふらつく身体をなんとか支え、どうしたらいいかとぐるぐると考えを巡らせていた時、
突然、自分の前に誰かが降り立った。
その姿は、鬼殺隊の隊服を着ているが、鬼の匂いが、鬼舞辻無惨の匂いが微かに匂い、この絶体絶命の状況下で新たな敵が来たのかと戦慄を覚えた。
だが、その者は、人間の匂いも強く、人間か鬼か、判断がつきづらいのも事実だった。
そして、得体の知れないその者は、自分を狙うのではなく自分に背中を見せた。
腰に刺さった刀を抜き、構え、そして、矢印の鬼の首をものの数秒で斬ってしまっていた。
自身があれだけ苦戦した鬼をあっさりと斬ってしまった。
そんな見惚れるほどの剣戟と強さに、炭治郎はぽかりと口を開けて、その背中を見つめる。
微かな鬼の、鬼舞辻無惨の匂い、
だが、それと反して温くて安心感を覚えるような、熟練された強い人間の匂いがした。
その者は振り返り、付けていた狐面を少しずらし、言った。
後は任せろ、と。
狐面をつけた者は突然走り出す、その方向は、禰豆子や珠世達のいる方向だった。
禰豆子たちは鞠を繰り出す鬼と対峙していた。
鬼はまだいるんだ、禰豆子達の元へ早く行かねば!
炭治郎は、ふらつく身体を自身で支え、足を引きずりながらなんとか目的地へ到着する。
そこにはもう、狐面の鬼が、鞠を持つ鬼と対峙していた。
「…鬼、なのか?
…もしかして、あのお方が探していた、鬼狩りに与する狐面の鬼か。」
そういうと、突然大きく笑い始めて、にやりと口角を上げて、幾重もの腕を振り上げ鞠を投げようとする。
「お前は殺す、あの方のためにも、全力で鞠を投げてくれようぞ!」
キャハハハハッ!とまるで幼子のような無邪気な、だが恐ろしいほどの甲高い笑い声も、ぷつりと消える。
何故ならば、対峙していた狐面の者がその首を斬ってしまったからだ。
ぽとりと首が落ち、さらさらと悲しい音を立てて体も消えていく。
そんな様を狐面の者は見下ろし、そして、近くに転がっていた鞠をそっと傍に置いていた。
「貴方は一体…。」
炭治郎がそういうと、狐面をつけた鬼は炭治郎を見て、
「さよなら。」
そう別れを告げて、その場を音も立てず立ち去ってしまった。
狐面から覗いたその顔は、優しい表情であったが、どこか悲しさも滲ませていた。