□猗窩座
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「…邪魔が入ったな。だが、お前からも練り上げられた強さを感じるな。」

斬られた腕を修復しながら猗窩座は言う。
また強い者と戦えると胸を躍らせたが、人間とは違う気配に気づき、目を細める。

「お前、鬼か?」

質問には答えず、凛人は俊足で猗窩座と間合いを詰め斬り付けた。

「よくも杏寿郎を傷つけたな、許さない。」

睨みつけ、首を正確に狙って突いてくる凛人に猗窩座は顔を顰めて応戦する。
だが、猗窩座の攻撃は易々と躱され、首をひたすらに狙い斬りつけてくる凛人に、猗窩座は段々と焦り苛つき始める。
怒りのまま猗窩座も攻撃を止めない。
凛人の体を確実に狙い傷つけ粉砕し血しぶきをあげるが、凛人も鬼であるため修復していく。

鬼対鬼の戦いはやっかいだ。
時間の無駄でしかない。

だが、強い者と戦うことに高揚感を覚えていることも事実だった。
こいつを倒せば、俺はまた強くなれる。
誰よりも強くならなければならないんだ、俺は。

猗窩座は嬉々として凛人に向かっていった。
その場が血濡れるほど壮絶な戦いであった。

そんな様を見つめる煉獄は、自分が何も出来ないことに、凛人に頼るほかない状況に不甲斐なさを覚えていた。
そして、凛人の身にまとう気配が変わりつつあることにも気がかりであった。
それは炭治郎も同じで、凛人の匂いを嗅いで、胸をざわつかせていた。
凛人が傷つけば傷つくほど、血を流せば流すほど、凛人からは鬼舞辻無惨の香りが濃く香ってくるように感じたからだ。
凛人の回復の早さも、猗窩座に劣らずどんどんと早くなっているのが分かった。


「凛人さん!!」

思わず炭治郎は、凛人の名を叫ぶ。
反応して振り返ったその目は、真っ赤に染まっていた。

気配の変化には、対峙している猗窩座も気づいていた。

「お前何者だ。」

攻撃をかわしながら猗窩座が聞くが、凛人は答えない。
自分が傷つくことを厭わず猗窩座を滅殺しようと無我夢中で刀を振る。

「思い出したぞ、お前。あの方の血を継ぐ鬼か。
お前の首、持って帰らせてもらうぞ。」

猗窩座はそう言うと、凛人が持つ刀を、拳で折った。
パキリと折れ、刃の切っ先が地面に突き刺さる。
その様を、凛人は見つめる。
その一瞬の隙をついて、猗窩座は凛人の腹を拳で貫いた。


「凛人!!」

煉獄も凛人に向かって掠れた声で叫んだ。
鬼である凛人にとって致命傷ではないことはわかっている。
だけど、凛人が傷つく様を見るのは嫌だった。胸が締め付けられるほどに嫌悪感を感じ、自身が動ける体なら助太刀をすぐにでもして背後に控えさせたかった。
もう、これ以上血を流させたくない、戦わせたくなかった。

猗窩座はそのまま首を吹き飛ばそうともう片方の手で手刀を首に向ける。だが、その手を押さえられた。
腹にめり込ませた手を抜こうとするが、どうしても抜けない。凛人が力を入れているのだ。

凛人の片方の手が空いた。

煉獄は状況をすぐ察知して、自身が持てる力を使い、自分の刀を凛人に投げた。
凛人はそれを難なく掴んで、猗窩座の首に、刀を刺した。
刺し込み、そして、ずずずっと刀を突き入れていく。
もうすぐで、首が飛ぶ。
凛人が勝つ。

そんな時、空がだんだんと白んできた。

猗窩座はそれに気づき、渾身の力で、凛人の拘束を抜け出してしまった。

自分の体が消滅する前に森の中へ逃げようとする猗窩座を、凛人も追いかけようとした。だが、ピタリと動きを止まる。

凛人は血を流しすぎた。
凛人は、自身の体の異様さに気づいていた。

追いかけてこない凛人を好機と捉えて猗窩座は森の中をぐんぐん走る。
だがそこで考える。
あいつも鬼だ。あのままではあいつは太陽の光で消滅する。
その様を見届けなければいけないような気がする。

そう猗窩座が思い振り返ろうとしたが、突然刀が飛んできて、猗窩座の胸を貫いた。

刀を飛ばしたのは、炭治郎だった。

「逃げるな卑怯者!!逃げるなァ!!」

その言葉に、猗窩座はビキ、と顔に血管を浮き上がらせ怒りに震えた。
柱でもないガキに一撃してやられた。
柱も倒せなかった。
あの鬼も持ち帰れなかった。

自身の不始末が溜まりに溜まり怒りでどうにかなってしまいそうだったが、太陽が昇れば自分は消滅してしまう。
猗窩座は唇を噛みしめ負け犬のように逃げ帰った。
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