□帰家
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思ったよりも遅くなったな…。
空が白んできて、夜明けが近い。
夕刻には戻ると義勇に話していたから、心配しているだろうか。
ああ、眠いな。ひたすら眠い。
早く帰路につかねば、眠りこけてしまう。

凛人は吉原を出ると冨岡邸までひたすら走っていた。
血を流した反動で凛人の身に睡魔が襲っており、こんなところで倒れるわけにはいかないと急いでいた。

ずっと走っていると、段々と日が差し込んできて、自分の身に太陽の光が降り注ぐ。
眩いほどの光に凛人は目を細める。

太陽の光が注がれてもまるで自分の体は反応しない、焼け爛れることはない。消滅することはない。

自分の体の変化には驚かされるばかりだった。
鬼となったばかりの頃は頭がぼんやりしていて何もかもさっぱりだったが、段々と思考もはっきりしてきて、記憶も思い出されてきた。
それはまるで人間に戻ったように思えるが、戦闘に出て血を流すたびに、自分はまだ鬼なのだなと思えて仕方なかった。
一時の奴の囁き声はなくなったが、自分の体からまだ鬼舞辻無惨の匂いがするのは嫌だった。

この太陽の光で、鬼の細胞が消えてしまえばいいのに。
だがそれは、自分が消滅することにも繋がるのだろうなとも思う。

義勇の言葉が思い出される。
凛人をもう失いたくないと必死な物言いと表情。
年齢とともに体つきも顔つきも成熟した成人男性のものへと変わったが、
昔となんら変わらない、泣き虫義勇と揶揄っていた、心の優しい少年の頃のまま。

義勇が大事だ。
私だってお前を一人にしたくない。
だけど、私は鬼だ。
このまま一生生き長らえるわけにはいかないだろう。
私も、一人にはなりたくないのだから。

必死に走ったが、段々と睡魔が襲ってきて瞼が落ちてくる。
ああ、駄目だ。ここで眠ってしまってはいけない。

ふらりと体がよろめいて立ち止まる。
しばし休憩しようかと思った時、目の前から誰かが来るのが見えた。
ぼやけた視界の中で、その姿は義勇のように思えた。
そんな都合がいいことは起こらないだろうと思っていたが、

「凛人!!」

自分の名前を呼び、手を伸ばすその姿は確かに義勇だった。



ふらつき倒れた凛人を支えたのは、肩で呼吸し額に汗をにじませる冨岡義勇であった。

「凛人!しっかりしろ!」

体を揺さぶり呼吸を確認する。
呼吸も、脈も正常。ただ眠っているだけと分かって冨岡はふぅと一つ息を吐く。
そして、その体を抱きしめた。

「あまり俺を心配させるな。心臓がいくつあっても足らない。」

冨岡は凛人の体を横抱きにして、元来た道を戻っていった、
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