□鬼の血
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宇髄邸を訪れると、しん…と静まり返っていた。人の気配がとんとない。
扉を叩いて「誰かいるか。」と声をかけると「中へどうぞ。」と声が聞こえた。

中に入ると以前見かけたことのある女人が一人迎え入れた。

「遠路遥々ようこそおいでくださいました。天元様の元へご案内いたします。」

声をかけ出迎えたのは、宇髄の嫁の一人である雛鶴であった。
まるで気配がなかったのは、元忍びという事もあり来訪者を気にしていたのかもしれない。

部屋まで通され中に入ると、床に臥せる宇髄天元の姿があった。
その姿を見て、凛人はすぐにそばに駆け寄った。

「具合が悪いのか。」
「凛人か。よく来たな。なのに地味な出迎えで悪いな。」

そういって体を起こそうとするが、ふらりとふらつき凛人がその体を支える。

「無理して起きなくていい。横になっていろ。」

宇髄と凛人のやり取りを見て、冨岡も傍により鎮座する。

「何があった。吉原での傷が尾を引いているのか。」
「目も左腕の傷もいつもより異様に治りが早くて塞がっている。
だけどなんだかな。頭がぼんやりして体も怠い。しかも異様に喉が乾くんだ。水を飲んでも癒されない。」

そう言うと傍に置かれていた水を一息で飲み干し、これじゃ足りないんだ。という宇髄の姿を見て、凛人はみるみる内に青ざめていった。

「…私のせいかもしれない。」
「…凛人?」
「私の血を飲んだから…。」

顔を伏せ表情を暗くする凛人を冨岡が気遣うが、凛人は冨岡に目を向ける事なく、宇髄の顔を覗き込む。

「しのぶの診察は受けたのか。」
「いいや、寝ていたら治ると思ってたからな。まだ言ってない。」
「なら、早く言ったほうがいい。血液検査も受けたほうがいいだろう。まさかとは思うが、そんな。」

かたかたと体を震わせる凛人に、宇髄が状態を起こし落ち着け。と声をかける。

「お前が危惧していることを言ってみろ。」
「あ…、」
「俺の体が、どうなってるって?」

今度は宇髄が凛人の顔を覗き込み問いかける。
問われた凛人は、震える口で、何度も次の言葉を言おうとするが、ぱくぱくと開閉を繰り返すだけで言葉が出てこない。
だから代わりに宇髄が言った。

「俺の体が、鬼化しているかもしれないのか?」
「いや、そんなはず。私の血では鬼にならないはず。現に、他の者で証明もされていた。ただ、傷の治りを早めただけで。」
「それは絶対か?」

宇髄の言葉に、凛人は言葉を飲み込む。
ぶわりと冷や汗をかきはじめる凛人に、冨岡が安心させるように背に手を回して摩り、宇髄を見やる。

「仮にそうだったとしても、凛人の血を飲むと決断したのはお前だろう。」
「冨岡、俺は凛人に聞いてるんだ。」

冨岡の言葉をばさりと斬って、宇髄は凛人の顔を覗き込みひたすらに問う。

「お前は言ったな、鬼とはならないと。なら俺が鬼となった時はどう責任をとってくれる?」
「せき、にん…。」
「鬼となった俺は自害でもしなけりゃ一生生きていかなきゃならない。三人の愛する嫁も先に死ぬ。俺は一人だ。」

それは、あまりに寂しいな。
凛人の顎をとり上をあげさせ、顔を近づける。

「お前も鬼だろう。同じ寂しさを共有できる。責任を取って、俺の嫁にでもなるか?」

俺の傍に、一生いてくれるか?
甘く、囁きかけるように言われ、凛人は自責の念にかられながらも震える口で、はい、と言いかけそうになったその時。

「天元様!いい加減にしてください!」
「悪ふざけも大概にしないと!」
「さすがに見ていられません!」

冨岡が宇髄の顔面を殴り飛ばそうと腕を振りかぶると同時に、襖が突然開いて、雛鶴、まきお、須磨が大声を張り上げて入ってきた。

その三人の姿と言葉に、凛人はえ?と声を上げて目を見開く。
三人の女人と宇髄の姿を交互に見ると、「あともう少しだったのにな。」と至極残念そうに宇髄が言って、その表情はまるで悪戯がばれた子供のようだった。

「天元、お前まさか。」
「俺の体はぴんぴんしてる、鬼になんかなっちゃいねーよ。」

派手に騙されたな!本当にからかい甲斐がある!とげらげらと腹を抱えて笑われて。
凛人はひたすらに苛つきその逞しい首を腰に据えた日輪刀で斬ってやろうかと思った。
思いながらも決してしないが、隣にいた義勇が宇髄に腕を振り上げ殴ろうとしており思わずその腕をとる。

「義勇!やめるんだ!」

無言で殴りかかろうとする義勇の腕をなんとか押さえつけるが、義勇は怒髪天を衝いていた。
恐ろしい形相の義勇を見て、お前もそんな顔が出来るのかと尚更宇髄は笑い転げ、天元様!いい加減にしてください!と三人の嫁は宇髄をひたすらに窘めた。
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