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□花蜜
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「よかったぁ」

姉さんは安心したのか、また丁寧に髪に櫛を通していく。
おれは目を閉じて、そのまま委ねる。

人は。
こんな幸せがあれば、人は争わずに生きていけるんだろうか。
自分の幸せに不満がなければ、他人のものを奪おうとしないんだろうか。

「今日ね…」

一通り梳かし終わったあと、姉さんはふいに呟いた。
細く紡ぐ言葉は、どこか暖かな熱を帯びるように響く。

「龍馬さんの髪を結ってあげたんだ…
龍馬さんの髪の毛ってね、すっごくクセっ毛なんだよ。だから結ぶの大変なんだ」

姉さんの、その声が熱を帯びるほどに、おれの頭の中はひどく冷めていった。
恥ずかしそうに、桃色だった頬をさらに色濃くして話す姉さんの顔は…。

「でも、また次もお願いされちゃった。今度は上手く結べるかな?」

龍馬さんに恋焦がれているようにしか見えない。

「……姉さんは、龍馬さんに惚れてるんですか?」

胸の奥で何かが弾け、赤く点ったような気がした。
自分のものとは思えないほど興ざめした声。
それを聞いて絶句した姉さんは、おれの顔を穴が開くほど凝視する。

「えっ…どうし」
「でもっ!!!」

姉さんのか細い問いを遮り、おれは声を荒げた。

「…でも」

おれは何を、言おうとしているんだろう。
龍馬さんに惚れている姉さんに、何を。

「でも、おれ姉さんに惚れてるんだ!!」

姉さんの腕を強引に掴み、体を引き寄せる。
繊細な身体は一瞬たじろいでおれの腕から逃れようとしたが、それは許さなかった。

「姉さん、おれのこと弟みたいに思ってるかもしれないけど、おれ姉さんのこと好きなんだ!」

華奢な首の後ろに腕を回し、無理やり口づけをする。
そのまま畳に組み敷き、両腕の自由を奪う。

「っ!!」

抵抗しても、女子の力では到底逃れられない。
徐々に猛々しさを増し、舌で姉さんの口腔内を犯し味わう。

「ん……んん…!」

苦しそうに歪める顔は、いつもより艶めいていて、逸る心を更に追い立てる。
このまま姉さんを奪ってしまったら。
あの慈愛で形成されているような龍馬さんは、どう思うだろうか。
おれを斬り捨てるだろうか。
気を失うほど殴られるだろうか。
あの優しい笑顔からは想像もできないほど、おれを罵倒するだろうか。
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