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□花蜜
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「ん……慎…ちゃ……」
弱々しく名前を呼ばれ、おれは瞼を薄く開ける。
いつの間にか、苦しそうな顔は穏やかになっていて、更に姉さんの腕はおれの背中に回されていた。
「…姉……さん…」
唇と唇を離し、ツーっと銀糸が橋をかけ、消えた。
「…慎ちゃん？」
「どう…して」
「……え？」
姉さんがおれを受け入れていた…？
でも、そんなことは。
「姉さんは…龍馬さんに惚れてるんじゃ…」
大きな瞳を瞬かせ、やがて眉根を寄せ眉間に皺を作る。
「わたし…龍馬さんに惚れてるなんて一言も言ってないよ？」
一瞬、思考が停止する。
確かに姉さんは、そんなこと言っていない。
でも、さっきの素振りはどう考えても、龍馬さんに惚れているそれだと思った。
よいしょ、と言いながら上体を起こした姉さんは、のん気にはだけた浴衣を直している。
「確かに、言ってないっス…。でも」
おれが言い終わる前に姉さんの腕がおれの首にまわされ
次の言葉は姉さんの甘い唇に飲まれてしまった。
そして今度はすぐに離れる。
「まだまだ修行が足りないね」
「えっ？」
おれは完璧に混乱していた。
「普通こんな遅い時間に、男の人の部屋に女の人が一人で来る？」
「…来ないっス」
「嫌いな人からこんなことされたら、嫌がらない？」
「…いや、微妙に嫌がってたっスよね？」
「それは驚いたからでしょ！もう！」
「はぁ………」
「とにかく！……わたしが惚れてる人は誰でしょう？」
さっきよりも赤くて、そして満面の笑顔をおれに真っ直ぐ向けてくれる。
ああ、おれはこの人に惚れて、本当によかった。
もう一度姉さんの体を引き寄せ、唇を重ねる。
今度は優しくゆっくりと姉さんを確かめる。
何度も舌を絡め、呼吸が出来ないほど抱きしめ合う。
離したくない。誰にも触れさせたくない。
おれだけのものにしたい。
「…でも、姉さん…」
しかしおれは一つの疑問を見つけてしまった。
抱きしめ合ったまま、額と額をくっつけ、姉さんに問う。
「どうして龍馬さんの話したんスか？
もしおれのこと好いてくれているなら、他の男の話なんてしないっスよね？」
「それはね…ふふっ……さて、どうしてでしょう？」
いたずらっ子のように、くすくすと笑う姉さん。
「あっ！姉さん、まさかカマ掛けたんスかっ！？」
それを聞いて、またくすくすと笑い出す姉さん。
こんなに可愛い顔をしてるのに、女子というものは、実に…。
「ふふっ…ごめんね。でもわたしも結構賭けだったんだよ？」
「それはそうかもしれないっスけど…」
おれは頬を膨らませ抗議する。
だっておれは本気で惚れてて、姉さんはてっきり龍馬さんのことが好きなんだと思ったから。
「だから、これで許して？」
もう一度姉さんから唇を重ねられ、おれはそれに応える。
姉さんはいつも優しい。
姉さんはいつも強い。
姉さんはいつも可愛い。
姉さんはいつも……………ずるい。
次頁、慎ちゃん・小娘・龍馬さんのおまけです。