長編[インセインハート]
□3 【貴方を探して 後編】
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俺には、幼少の頃の記憶がほとんどない。
幼稚園より以前の記憶がない。
まぁ、幼すぎて覚えていないんだろうと思っていた。大抵の人がそうだろう。
俺は、両親の子ではないと思った事は、一度もない。ましてや、自分が養子だったなんて。
当然だ。
突然突き付けられた真実。
そして、俺の知らない所で話しは進んでいた。
なぁ。
俺は、どうすればいぃ?
自分の、この優柔不断さには、ほとほと愛想が尽きる。
朝。薄いカーテンの隙間から朝日が差し込む。
その光が顔を照らし、眩しさに俺は目を覚ました。
「…んっ。」
ゆっくりと、重たい体を起こす。体のあちこちがまだ、ズキズキと痛んでいる。
いつのまにか、眠っていたみたいだ。
見ると、服は制服のままだった。当たりを見渡すが、いつも通り静まりかえっている。
あぁ。
この場から、消えてなくなりたい気分だ。
昨日の出来事が、嘘みたいに晴れわたった空。
カーテンの隙間から除く優しい光でさえ、今の俺には虚しく思えた。
正直、どう反応していいのやら……。
ぼんやりとしていると、どこからか良い匂いが漂ってきた。
「なんだ?」
部屋を出て、一階のリビングへと下りていくと、そこには昨日出会った奴らがさも当たり前かのように、テーブルで朝食を取っていた。
「…………何してんだ」
「んぁ。おふぁよう!」
口いっぱいにパンを頬張りながら、ララが片手を上げて挨拶をする。
「ララ。飲み込んでからものを言えよ。おはよう栗。」
ララの行儀の悪さに、注意してハルも続いて挨拶をする。
「お。おはよう。……じゃねぇよ!何してんだよお前ら!」
「何って、飯食ってるにきまってんだろ?栗も早くこっちきて食えよ。」
「すまないね。勝手に台所使わせて貰ってるよ。」
台所から、不機嫌そうな顔をしながらキイナが出てきた。手には、皿にのった焼きたてのトーストと、スクランブルエッグとウインナーがある。
「やかましい。だまって飯を食え。」
「あ、キイナ。栗起きたよ。」
「?!」
栗の名前を聞いた瞬間、くわっ!と目を見開いてこちらを勢い良く見つめる。
「?!…(なっ…なんだよっ!)」
「にっ………」
に?
「にっ……!!」
に?
「兄様ぁぁあ!おはようございますっ!」
持っていた皿をハルの方へと投げすてて、栗の所に駆け寄る。
「どわっ?!っと!あぶないだろキイナ……かって………………。」
「おはようございます兄様!!お加減はもう宜しいのですか?!あっ!朝食はどうしますか?!ご飯ですか?それともトーストですか?まかせて下さい!俺料理得意なんで!兄様の好きな物なんでもつくれますから!!」
(((………誰?!)))
(なぁ、ハル……あれ……誰?………隊長って……あんなキャラだっけ?)
(いやいやいやいや。違うだろっ!誰だこいつ?!)
(ハル!隊長にしっぽと耳が見えるよ?!)
(幻覚だララ。幻だ。あの無愛想なポメラニアンが、あんなはずないだろう!しかもみろ、栗の奴ギャップの激しさに、ほうけてるよ。)
「あっ……え…じゃぁ…トーストでっ…」
「分かりました兄様!俺が腕によりをかけてお作りいたします!」
栗からの注文を受け取ると、クルリと回って再び台所へと駆け寄る。
ハルとララがこちらを見ているのに気がつき、先程の表情とはうって変わって、今度は恐ろしい目で二人を睨みつける。
「何みてんだコラ。」
((ひっ!…))
(だからなんだそのギャップの激しさは!?)
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