長編[インセインハート]

□第二章前編
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中世ヨーロッパ、16世紀の初め。

少し古びた一軒家。
そこには、母親と小さな息子がくらしていた。
この親子は何処にでもいる、”普通の人間”だ。


そう。

それまでは。


「近寄らないで!!」

母親へと伸ばされた、小さな手は、バシッと言う痛々しい音と共に、払い除けられた。

「お母さん…」

「やめて!お母さんだなんてよばないで!」

母親はヒステリックに叫びだす。


この少年は、ある境から特殊な能力を扱えるようになっていた。
ただ、あまりに未熟なため、力のコントロールがうまく働かせずにいるのだ。

始めは、近所の猫と遊んでいた時だ。

猫はじゃれて少年を引っかいた。引っかかれたことにより、少年は驚く。

とその時だ。

傷口から、ジンワリと滲み出る血を見た少年は、体の奥底から湧き出てくる”何かを”を感じた。

そして、そっとその猫に触れる。

途端に、猫はぴくりと動かなくなり、徐々に白く固くなっていき、最後には鈍い音をたてて崩れていった。

幼い少年には、それがどのような事を意味するのかなんて、知るよしもなかった。


母親は、偶然それを目撃していた。

この時代、能力者つまり影人は、人々から恐れ初めていた。
身分を偽って暮らす人々もいた。
そうしなければ、ここ数年頻繁に起われている、【宗教裁判】にかけられてしまうからだ。

それから、5年たったある日の出来事。

なかなか成長しない息子へ、母親は毎晩のように責め続けた。

「どうして?!どうしてあなたはちっとも成長してくれないの!」


5年前の少年の年齢は10歳だ。それから5歳。
当然それなりに身長も伸び、体重も増えていくはずだった。

が、しかし。少年は5年たった今でも、昔と何一つ変わらぬ容姿をしていたのだ。

「他の子は皆大きくなったのに、なんであんただけ、昔と変わらないのよ?!!」




壊れていく母親。
いつ、周りには知られはしないかと言う事に、日々怯えて暮らすようになっていった。

家の中はめちゃくちゃ。

母は少年を怖がり、近寄せようとはしなかった。

行き場をなくした少年は、何も言わずにその家から飛び出すようにして、出ていった。

歳をとらない自分と

歳をとって行く母親。

世間一般では、それは”異端”だと言うことになる。

かくゆう少年もその一人だった。

自分は、皆とはな違う

”異端者”なのだと。
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