長編[インセインハート]
□第三章前編
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背中にキイナを負ぶさって、そのまま帰宅した。
血まみれのキイナを負ぶさったまま歩く俺を見て、学校の者は皆慌てふためいていたが、そんな事はまったく頭に入ってはいなかった。
先に帰宅していたハルが出迎えてくれて、そのまま使われていない寝室へと運んでくれた。
怪我を負ったララは、どうやら命に別状はなく思いのほかピンピンしていたが、キイナの様子を見て顔を青ざめていた。
「このまま連れて来ちまったけど、救急車呼ばなくていいのか?!」
「いえ、呼ばないで下さい。」
応急手当を施しながら首を左右にふる。
「でもすごい出血だぞ?!」
「幸い我々能力者は普通の人よりも多少体の作りが頑丈にできてますし、それにもしここで仮に救急車を呼んで治療を受けたとしましょう。…どうなると思いますか?」
「どうなるって……どうなるんだ?…」
ハルは眠っているキイナに最低限の治療を施している。
包帯を巻きながら更に話を続けた。
「我々能力者はこの力を制御し扱うために、母体となる身体の機能をこの強大な力に対抗出来るように作られてます。だから、普通の人よりも身体能力が優れていたりします。」
「ですが、病院などで処方あるいは治療に使われる薬を摂取することは出来ません。能力のためだけに特化された我々の体では、それを摂取してしまうと強い拒絶反応を示し、最悪の場合死にいたります。」
「う…嘘だろ…治療できないなんて…」
深くため息を吐いて、ちらりと栗を盗み見てみると、唇をかみ締めて拳を強く握りしめている。
「………」
「昔は治癒能力者が沢山いたんですけど、表の世に出なくなってからは数が激減してしまって、今では能力者がいる事自体大変珍しくなってますし…。…よし。とりあえず、応急処置は施しておきましたので。」
腰掛けていたベットから立ち上がる。
栗は黙ったままだ。
今彼は自分を責めている。
ここはそっとするべきなのだろうか。
ゆっくりと歩き出して、俯いたままの栗のところへと行く。
「あなたがご自分を責める気持ちは、良く分かります。ですが…これだけは言わせてください。」
「?」
今まで俯いていた顔がやっと上がる。
そんな彼の両肩を思いっきり掴む。いきなりの事で驚きの色を隠せないでいる。
「この人の前で二度とそんな顔しないで下さい。今、自分さえいなければなんて思ってませんでしたか?自分さえいなければ、こんな事にはならなかったのにと?」
「そっ…それは…」
確かにそう思っていた。
何にも出来ない自分が腹立たしくてどうしようもなかった。
考えれば考えるほど、頭の中がごちゃごちゃしだして、この気持ちが果たして俺のものなのか、俺の中にいるあいつのものなのか………
「それに……」
「?」
「栗…あなたには本当に申し訳ない事をしました。巻き込んでおいて、今更…かもしれませんが。」
そう言ってそれ以上何も言うことはなく、そのまま部屋をあとにした。