長編[インセインハート]

□第四章前編
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 このあたりではとても有名な公爵家であるサライヤ家では、近々とても大事な行事が行われようとしていた。
この公爵家の長男が、近々成人の儀を行うからだった。
家の者も含め、知人や友人をも招いて盛大に行われようとしている。家の者は皆、その日の息子の晴れ姿のために、新しい衣装を取り寄せたりだのと大忙しだった。

だが、周りが忙しそうにしているのをよそに当の本人は全く乗り気ではなく、誰も居ない倉庫の中で、父が趣味で集めている骨董品や年代物の武器に囲まれるようにして寝転がっていた。

時たま、適当に手にした武器の柄の部分で、近くに置いてある骨董品をつついては転がしたりして遊んでいた。彼の父親が見たら鬼のように怒るであろう。
あぁ、これ見たら絶対父様は怒るだろうな。と渇いた笑い声を上げて大きなため息をはいた。



 彼がなぜこのような所にいるかというと。
成人の儀が済んだあとすぐ、家同士の都合で結婚、つまり、政略結婚する事になっているからだった。
しかも、だたの政略結婚ではない。
相手の女性は、この国の頂点に立つ人物の娘だ。この国の王には3人の息子とその下に1人娘がいる。その娘がエルヴィスに一目惚れをしたとかで、当の本人を差し置いて話はあれよあれよという間に進んでいってしまった。
しかも、それだけではない。ここ数年、サライヤ家の財力は低迷しつつあり、先方がもしその娘と結婚してくれるなら、今後のサライヤ家の将来を保証しようと言って来たのだ。

これを聞いた父と母は、考える間もなくすぐに返事をしてしまったのだ。
つまり、本人に聞く前に了承してしまったのだった。

普段あまり怒らないエルヴィスでさえ、これには流石に怒りを覚えた。
というよりも、一瞬殺意が芽生えるほどであった。


「まぁ、どちらにせよ…相手が相手なだけに断れないわなぁ・・・。」


どうしようもないこの思いを、誰も居ない薄暗いこの倉庫の中で独りごちった。


「しかも・・・婿養子か・・・。」




「はぁ・・・。」




 
 なんかもう、暇だなーと思いながら、倉庫の扉の方へと視線を向けた。
今、彼の弟は勉強中で屋敷の中にいる。
その弟がいるであろう方角へとゆっくりと視線を移していった。

あぁ。

早くあいつの顔を見ないと。

「まだ勉強中かな・・・。」


じゃないと、お兄ちゃんは寂しくて寂しくて干からびてしまいそうだよ。


「早く終わらないかな・・・。」
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