長編[インセインハート]
□プロローグ【覚醒】
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俺の人生は、あの時あの瞬間から、少しずつ変わっていったように思える。いや……、思うのではなく、間違いなく変わったんだ。
高校三年の秋、突然行方不明になった、俺の双子の兄、有栖川智彦(アリスガワトモヒコ)。
同じ時期に”消えて”しまった俺の両親。
その時の俺は、ただ分けがわからなく、どうしようもなく、その場に立ち尽くしていたのだけは覚えている。
分からない事は、数えきれないくらいにある。
たとえば、何故兄が突然行方不明になったのかとか、何故両親が消えたのかとか。
でも、一番の謎は
何故、周りは俺の家族の存在自体を覚えていないのかとか。
いつも、後から”何故”が、俺を付きまとう。
まるで、今まであった物が、突然上から塗り重ねられて、それが今まで無かったかのように。
俺が唯一頭に焼き付いて離れないのは、
最後に見た
兄の、ぞっとするような冷たい笑顔と、その口から発した
『時がくるまで…』
と言う一言だけだ。