長編[インセインハート]

□2【貴方を探して 前編】
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 一人の青年が、落ちてゆく夕日を見上げている。腰に日本刀をさし、それをきつく握り閉めてる。

「どうしたんですか?」

青年よりかは幾分か背丈の低い少年が、心配そうに声をかける。
青年は、少年に愛想のない返事をする。

「動きだした…。」

「…まさか…。」

戸惑いを隠せないでいる少年は、青年に詰め寄る。
 
「どうするんですか?!…!!あの人は!あの方は?!」

「落ち着けララ。」

取り乱す少年の後ろから、声をかけたのは銀髪の髪をした男だ。男は、ララという少年の肩に手を置きなだめる。

「うるさい…。安心しろ。場所は分かる。」

青年は、それだけを言って刀をきつく握り締めたまま、歩きだす。
その後を慌てて追うようにして、二人も歩きだす。夕日の影で表情は分からないが、青年の顔は強張っていた。まるで、恐れていたことが現実のものになったかのような。

 彼らは、ずっと探していたのだ。
少年が、「あの方」といった人物を。

 そして、彼らは恐れていたのだ。
また、あのような惨劇が起きるのではないかという事を。彼らは、動き出したという気配のする方へと駆け足で向かう。

「急ぐぞ。」

あの方が危ない。
彼には、分かるのだ。いや、彼だけにしか分からないのだ。

平常心を保ちつつも、彼は動揺していた。

どうして。

どうして。

俺はもう二度と、あなたのあのような姿はもう二度と見たくないんだ。

俺は、もうあのような惨劇は御免だ。

彼は遥か昔に誓ったのだ。
あのような惨劇は繰り返さないと。
もう二度と、あなたにあのような思いはさせないのだと。

 だが、その悲劇は再び繰り替えされよとしている。もう二度と繰り返すまいと誓った、あの出来事を。

(俺は…あなたには…もう会えないのだと思っていました…。)







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