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□幸せな日
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「じゃあいただきますしよっか。いただきます」
「「いただきまーす」」
声をぴったりと重ねて合掌する熱斗と彩斗。熱斗は早速はる香が作ったサンドイッチに手を伸ばす。
(今日は熱斗と遊ぶんだから、早く食べなきゃ)
彩斗も一生懸命サンドイッチを食べ始めた。
 「ふたりともおいしい?」
 「「うんっ」」
 すると玄関から電話が鳴った。
「あら、電話だわ」
「パパからだ!」
「お父さん!?」
熱斗は椅子から飛び降りて、走り出そうとした。
「こら!熱斗、食べてる途中でしょ!」
熱斗を叱り椅子に戻ったのを確認してから、はる香は電話を取りにいった。ふたりは顔を合わせ、玄関から聞こえてくる会話に耳をすました。
「…はい、光です。あら、メイルちゃん。こんにちは」
ぴくん
メイルという名前に彩斗は反応した。一方熱斗は父からではないことがわかりがっかりしていた。しかし彩斗は胸がざわざわした。なんだか嫌な予感がする。
「ちょっと待っててね」
はる香がキッチンに戻ってきた。
「熱斗。メイルちゃんがお家に遊びに来ないかって」
「……!」
「メイルちゃんが?」
嫌な予感が的中した。やっぱりメイルちゃんはボクから熱斗を攫(さら)いにきたんだ。
(熱斗、行かないで…!)
彩斗は心の中で必死に祈った。きっと熱斗は優しいから行くんじゃ…。
「行かない」
熱斗がきっぱりと言った。彩斗は驚いて顔をあげた。
「熱斗、メイルちゃんのところに行かないの…?」
(ボクのそばにいてくれるの?)
「当たり前でしょ?だって今日は彩斗クンと遊ぶんだもん」
なんでそんなことを聞くの?きょとんとした顔で熱斗が尋ねると、彩斗の目から涙がこぼれた。
「さ、彩斗クン!?」
「良かった。よかったよぉ…」
安心して彩斗は思わず泣き出した。熱斗は彩斗を抱きしめた。
「彩斗クン、なんで泣くの?」
「だってぇ…」
「熱斗、彩斗!ぎゅうしちゃだめっていつも言ってるでしょ!」
「ママ、電話は?」
「熱斗!ごまかすんじゃ…あーもうっ」
いつまで経っても返事がないため電話はいつの間にか切られていた。そして再びコール音が聞こえてきた。
はる香がぱたぱたと出ていったのを確認してから、熱斗は彩斗に顔を近づけちゅっと目元の涙を掬(すく)い取った。
「ね、熱斗!?」
彩斗はびっくりして、顔を赤くしている。熱斗はいたずらっ子のような表情を浮かべて言った。
「いっぱい食べて、いっぱい遊ぼうね」
「…うん」
そう言って、彩斗にサンドイッチを食べさせてあげた。
「ボクもするっ」
彩斗も真似をして、熱斗にサンドイッチを差し出した。
「熱斗。あーん」
「あーん。なんだかパパとママみたいだね」
「ホントだっ」
ふたりはどちらともなく笑い合った。
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