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□幸せな日
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朝ご飯が終わって、熱斗は彩斗の部屋へとやってきた。
「彩斗クン、遊ぼっか」
「うん!」
(これから熱斗と遊べるんだ)
そう思っただけで笑顔が止まらない。窓の外を見れば、相変わらず雨が振っていてまだまだ止みそうな気配ではない。
彩斗は空一面に広がっている雲を見上げて、にっこり笑った。
(雨さん、ありがとう)
彩斗は心の中でつぶやいた。
(雲さん、お願い。ずっとずっとお日様を隠していてね)
そうしてくれたら、熱斗はずっとボクのそばにいてくれる。
「彩斗クン、彩斗クン」
熱斗に肩を揺すられ、彩斗は我に返った。
「どうしたの?しんどいの?」
熱斗に心配され、彩斗はふるふると頭を振った。
「ううん、ちがうの。これから熱斗と遊べるんだって思ったら嬉しくって」
えへへと彩斗は笑った。
「彩斗クン…。僕も彩斗クンと遊ぶの楽しいよ。どんな友達と遊ぶよりも彩斗クンと遊ぶのが一番楽しいもんっ」
「熱斗…!」
嬉しくって嬉しくって、彩斗は再び熱斗に抱きついた。
「彩斗クン、何して遊ぶ?」
「熱斗が決めていいよ」
「だめっ。彩斗クンのやりたい遊びをするの!」
「ボクのやりたい遊び…。白雪姫ごっこ!」
「でも彩斗クン、白雪姫はふたりじゃできないよ」
森の小人さんに怖い魔女。熱斗は指折り数えた。
「僕の友達をお家に呼ぶ?」
「だめっ!!」
彩斗は即座に叫んだ。
「熱斗とふたりきりがいいんだもん!…それとも熱斗は他のみんなも一緒の方がいいの?」
口を小さく尖らせ、拗ねたような表情。熱斗もすぐに頭を横に振った。
「ちがうよ!僕も彩斗クンとふたりだけがいいもんっ」
「熱斗…」
「それじゃあさ、最後の場面だけやろうよ。王子様のキスで白雪姫が起きるとこ!」
そこは熱斗も彩斗も大好きな場面。いつもはる香に読んでもらっている時も、何度も何度もお願いして読んでもらっているお気に入りの場面。
「じゃあ熱斗が王子様で」
「彩斗クンが白雪姫ね!」
「決まりっ!じゃあやろう!!」
彩斗はごろんとベッドに仰向けになった。
「あ、ちょっと待って…」
熱斗は部屋を出てそうっと階段を下りた。はる香は洗い物を終えて、リビングでテレビを見ている。熱斗ははる香に気づかれないように再び部屋に戻った。
「大丈夫。ママ、テレビ見てる」
「ママに見つかると、また怒られちゃうもんね」
熱斗はベッドのシーツを身に纏(まと)うと、マントのように翻した。そして目を閉じ、眠っている彩斗に顔を近づけようとした。ところが顔を下ろす前に、唇にちゅっと柔らかい感触がした。
驚いて目を開けると、眠っているはずの彩斗が起き上がっていた。熱斗に負けないいたずらっ子の顔で、えへへと笑っている。
「我慢できなくなっちゃった」
「もぉ、彩斗クンったら!」
「だって大好きな人がすぐ近くにいるのに、待ちきれないよ…」
いつもは一番近くにいるはずなのに、遠い存在だった熱斗。その熱斗が今日はこうしてずっとボクのそばにいてくれる。彩斗は幸せ過ぎて、信じられないほどだった。
「彩斗クン。もっかいしよっ」
「うん!」
「今度は白雪姫の彩斗クンのために、積み木のお城つくってあげるね」
「うん!!」

外は冷たい雨が振っているが、彩斗の部屋はどこよりも暖かかった。
彩斗の幸せな日はまだ始まったばかりだ。
END
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