読み切り

□エターナル
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御買物をするのに、街を歩いていると
御腹を大きくしてる人が目に入った。

その人とすれ違っても、ずっと見入って居たら
リォが、まあま?と服を引っ張る行動で、ふと我に返る。

我に返りながらも、もう1度その人の方を見る
「懐かしいなあー・・・」
そう呟いた私を、リォが不思議そうな顔で見上げていた。



家に着き、買ってきた物をしまっていると、リォが駆け寄ってきた

「んー?」
「まあま、だっこ…」

縋る様に手を伸ばしてくる我子の手を取り、抱き上げ軽く揺すると
きゃきゃと嬉しそうに笑い、目を閉じる

この癖まだ治ってないんだなー…
なんて、ちょっと嬉しくなり微笑んでいると





「何笑ってんだ…?」
仕事から帰ってきたカイが、扉の脇から小さく声を掛けてきた
「ぁ、おかえりなさいー」


「ん。リォ貸せ、寝かして来てやる」

普段着に着替え、戻って来たカイが手を伸ばす。
「おねがいー」
リォが起きない様に、ゆっくり持ち上げ渡すと
手馴れた感じで抱き上げて、寝室へ向って行く。


その背中を見、慣れてるなって思う私。
「そりゃあ、そうよね…」
当然のこと思っちゃって、軽く溜息が出る。




「今度はどーしたんだよ」
「ぁ、もう寝かして来たの…?」
「ん」
得意げに笑う、このカイの顔…嫌いじゃないから、余計ムカつく。

「珈琲飲む?」
椅子から立ち上がり、カップを探しながら問うと
何時の間にか、読んでいる本から目を離さずに、おー。とだけの返事が返って来る。

カップを手持とに置いてあげると、さんきゅ。と呟く。
カイと向い合わせに座り、じぃーっと見つめる。
さらさらの髪、若干攣り目の目、身長の割にはおっきい手。
昔と全然変わってない。
けど、最近あの髪に触ってないし、あの目に見られてないし、あの手に撫でられてない。

「はあ…」
これって、我侭なのかな?
昔は、そうあの頃は、カイが…







「…アテ、お前、最近身体熱くねぇ?」
「ふぁ?そう?」
「あぁ、絶対ぇ体温高いぞ。熱あるだろ」


後ろから抱きしめられながら、のんびり食後にテレビを見てたら
カイが唐突に言ってきた。確かに…言われてそう言えばそうかも、なんて思う。
でもこうして動けるしたいしたことないよ。

そう告げると、カイは。


「お前は医者か。ちゃんと病院行け」


と少しだけ怒ってそう言った。


「…っか、一番大事なこと聞くの忘れてた」
「えっ?なぁに?」
「お前…その……ぁ、ぁれ、はちゃんときてるのか?」
「ぁれ?」


カイが、視線を逸らしながら、若干頬を赤らめている。
ぁれ…って何だろう?
"うーん…"と私が考え込んでると、カイは少し呆れたみたいにため息をついた。


「ったくお前は鈍いな。いいか?やることやってんだ。その、月のモンが来ねぇってことはだな…」
「…あ!」






もしかして…赤ちゃん……!?
そう言えばほんとにぁれが来てないや!
カイすごいっ!
私、今気づいたあー。


「…こんなボケボケなのが親になれんのか?オイ。ったく、心配だぜ」
「カイ…私、ちゃんとしっかりするよ!頑張るから!」
「ん、そうしてくれ」


赤ちゃん…あたしとカイの赤ちゃん。
そうだよ!まだ確認したわけじゃないからわかんないけど、多分あたしのお腹には赤ちゃんがいる。
母親の勘だよ。

そう考えれば最近の胸のむかつきとかダルさとか納得出来る。
食欲がなかったのも食べても戻してたりしてたのは赤ちゃんがデキたからかー。
嬉しい。
何もかも初めてのことだらけだけど、不思議と不安はない。
だって、隣にはいつもカイがいてくれる。
その大好きな旦那様の赤ちゃんがあたしのお腹にいるなんて…。
私もカイもまだ学生だけど…うん、とっても幸せ。


「おい行くぞ」
「ん?」
「病院だ」
「…あぁ、そっか!そうだよね」
「おいおい…言った側からこれだ。しっかりしてくれよ」「はーい」







カイの言う通り、私は若干ぼけっとした所が目立つ…
今はまだ全然しっかり出来てないけど…治す様に頑張るから。
私、生まれてくる赤ちゃんの為ならどんなことでも頑張れるよ。
きっとこれが親心ってもんなんだね。
親も子供が生まれて初めて親になれるんだ。
子供は親を選べないけど、だからこそあたしたちの間に生まれてきてよかった、って言えるような親になりたい。

ね、カイ。
そう思わせてあげられるような親になろうね。



「おめでとうございます。三ヶ月ですね」


街の小さな病院で検査してもらった結果、やっぱり赤ちゃんが出来ていた。
まだ小さいけど、エコーにちゃんと映ってる。
あたしはその写真をジッと見つめた。
ほんとに赤ちゃんいるんだー…。
カイを見上げると、カイも写真を見て笑っていた。
そして二人で顔を見合わせて笑う。

医師はとっても優しそうな、女の先生…
年齢的に確認を取られたけど、結婚してれば問題ないみたいで良かった。

カイ、私…とっても幸せだよ。

"ではまた二週間後に来て下さい"
そう言われて病院を出た。




「ね、カイ。赤ちゃん、三ヶ月だって」
「ん」
「まだ手も足も頭もこんなに小っちゃい」
「ん、そうだな」


何よりも大切な命。
私達の子になってくれてありがとう。
何があっても必ずパパとママが守るから。


「アテ…んゃ、アテーレ」
「ん?」


カイが私の手を取って、ギュッと力を入れて握った。
見上げれば優しい顔をして微笑んでるカイがいた。

普段、冷めている様な雰囲気を出してる彼。
それが今は父親の顔になっている。
きっと私も同じ顔になってるんだろうなー。
私達には守るものが出来た。


「…さんきゅ」
「ふふ、私の方こそ…ありがとう」






前にカイは言っていた。
"俺は自分自身でいっぱいだ、器用じゃねぇんだよ…"って。
私はそれでもいいと思った。
私は私の意思でカイの傍にいたい、そう思った。
幼い頃から一緒だったせいもあるか、彼と離れるなんて考えられなかったし・・・
だから、もし彼が先にいなくなってしまっても後悔なんかしない。
カイと私が今、ここで二人で生きてた証があるから。

そんな彼も少し変わったように思う。
ねぇカイ。
守るものがあるのもいいものでしょ?
大切な守るものがあるからこそ強くなれることだってある。
私はそう思う。


「身体大事にしろよ」
「はーい」


だから精一杯の愛情を注いで、二人で育てていこうね。


なんて、思ってたなあー…
今でも鮮明に覚えてるや、あの時のこと。




「ふふ、懐かしい…」
「あ?」

行き成り呟くものだから、本を読みながら珈琲を飲んでたカイが
顔を上げ、私の方を見た


「何が懐かしいって?」
「今日、御買物してる時ね…妊婦さんみたの」
「妊婦…」
「御腹大っきくてね」
「ふーん…で?」
見たものを、なんだから微笑ましく思い報告してると
カイが、ぶっきらぼうに反応してきた


「んもぉ…カイ、昔と変わった!」
「はあ?」
「昔は、もっともーっと、私の話ちゃんと聞いてくれたもん」
「…」
「…リォが生まれてから、カイ余計冷たくなった」
「…はぁ」
俯きながら、いままで感じていたモノを吐き出すと
カイは呆れた様に溜息を吐き、珈琲を飲んだ。







「…」
その反応が、いつもは全然気にしないのに
今日は凄く気になった。悔しくて、なんか寂しくて涙が出てきそうになって
慌てて、服の袖を目元にやる。


「おい、アテーレ…」
「…」
「アテーレ」
「…」
「…はぁ、アテ」
「ぇ」
なによ、今更。なんて思って無視していたら
昔の呼び方で呼ばれて、驚いて顔を上げると、カイが苦笑いを浮かべながら、私の頭を撫でてきた。



「悪い。最近冷たかったよな…」
「…」
「リォが生まれてから、あんま構ってやってなかったし…」
「…」
「リォの前に、お前は…アテは俺の大切な奥さんだもんな」

ちょっと頬を染めながら、笑うカイ。
馬鹿、私その顔に弱いこと知っててやってるんでしょ。
「なによ、なによ…ずるいよ、カイ」
「知ってるだろ、んなこと…」
「知ってるからこそ、ずるいんだもん…」


涙が溢れてくる。
私、なんだかんだ言っても、この人が好きなんだ。
その気持ちが、涙と一緒に溢れだしてくる。




「…馬鹿」
「ん」
「…カイの馬鹿」
「ん」
「馬鹿馬鹿馬鹿」
「ん」
こう言い続けても、ただ、うん。と頷き撫でてくる。
本当、馬鹿なんだから。


「でも…」
「…」
「好きだよ、昔と変わらず…ずーっと、ずーっと」
「…当然だろ」
そー得意げに笑いながら一言呟くと、唇を重ねてきた。





「ちょ、馬鹿…止めてって」
「いやだー」
「いやだって…」
変わって欲しい所は変わってないんだからー
まあ、そんな所も好きなんだけどね。



諦めかけ、されるがままになろうとした時。

「まあーまー…」
「ふぁ?」
カイの体を避け声の方を見ると、目を擦りながらこっちを見ているリォが居た。
「お前って、本当良いタイミングで来るよな…」
「…ふふ」
リォを見、呆れながら呟くカイを見ると、思わず笑いが込み上げて来る。


「確かに、リォって良いタイミングで来るわよねー」
「計ってるな、コイツ…」
カイが溜息を吐きながら、リォに手を伸ばすと素直に縋ってくる。








「起きたのか?」
「あい…」
「…眠いのか?」
「あい…」
「駄目だ、コイツ…寝惚けてる」

また、溜息を吐きながらリォを撫でるカイ
その顔は、さっきとは違う父親の顔だった。
「…ぱーぱ」
「んだ?」



どんなになっても、きっとこの気持ちは変わんないんだろうね。
例え貴方が、変わってしまったとしても
好きって気持ちは、かなり強い想いなんだと思う。
私は貴方が好きよ?


「大好き…」
そう言い、頬に軽く口付けると
「ばっ…!」
真っ赤になって、視線を逸らす。
その顔は、父親の顔じゃなくて、あの頃の青年の顔みたいだった。


その様子を下から見上げて見た居たリォが
「りぉも、しゅきー♪」
ニコっと笑いながら、カイの頬に口付ける。
「んな!?」
「あら…」
リォにまでされて、更に真っ赤になるカイ。

「っー…」
「リォ、ままにはー?」
「しゅきー♪」
軽く屈み首を傾げると、またニコっと笑い口付けてくれる。


「ふふ、ままも好きだよー」
頭を撫で、頬に口付けてあげると、嬉しそうに笑う。
「きゃあ…」
未だ、顔を赤らめて俯いてるカイを物欲しそうな顔で見つめるリォ。

「カイ、リォがちゅーして欲しいってー」
「…ぱぱも、お前が好きだよ」
照れながらも口付けてあげると、心底楽しそうに笑いくっつく。







「…アテ」
「ふぁ?んな…!?」
片手で、私の腕を引っ張り、頬に口付けてきた。
「アテ、好きだぜ」
私の好きな、ニカっと笑いながらそう言う貴方。




「…私も」


あの頃は、精一杯の愛情を注いで、二人で育てていこうね。
なんて思ったけど、違うみたい。








本当は…









(なに笑ってんだよ…)(ふふ、なんでもなーい)(…変な奴)(うるさい、器用じゃない癖にっ)(るせー…)

 

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