ふとした瞬間に寂しくなるときがある。
そんな時はいつだって傍に居てくれる人を見つめる

「つばさ」

ゲームに夢中になっていて私の事なんて見ていないけど、私には魔法の呪文があるんだ。
横に座っている翼の服の裾を少し引っ張って甘えた声で名前を呼ぶ
こうすれば翼は私の方を向いてくれて、心配そうにしていた顔は私を確認すると安心して緩む

これでコントローラーに独占されていた両手は私のものだ。
片手は腰に、反対の片手は頬に伸びてそのまま親指で唇をなぞる

優しい表情が好き。

唇を見つめていた翼の顔が近づいてきて、目線が絡むのなんて慣れてるのに妙に恥ずかしくて、
キスしてもらえる嬉しさと、恥ずかしさと、全部纏めて飲み込んで、それと同時に目を瞑った

それなのに

「…くちびる、荒れてますけど」


期待していた優しいキスは降ってこなくて、
意地悪な翼の台詞に瞑っていた目を開けば、そこには私をからかって楽しそうに、意地悪く笑う翼が居た。

「どうして、そういう事言うの」

なきそう
今まで翼がこんな意地悪言ってきた事ないのに。
こんなに近い距離にいるのに、キスしてもらえない所か荒れている私の唇をなぞってニヤニヤ笑われる
顔が一気に熱くなるのと同時に、視界がぼんやりとゆがむ

これ以上近くに居たくなくて、少しでも離れたくて、両手で翼の胸を押す

「え、なんで泣くの」

まさか私が泣くとは思っていなかったらしい翼は、私の抵抗にそうはさせるか、と抱きしめる力を強くしてくる
甘くてとろけるキスをくれればよかったのに、
どうしてそうやって余計な事を言うんだろうか

「うるさい」
「楓が気づいてないと可哀想だと思って教えたんだけど、傷ついちゃった?」

傷ついちゃった?じゃないわよ
自分が意地悪言ったって分かってる癖に。
翼の前では可愛い可愛い楓ちゃんで居たいって思ってる気持ち、分かってる癖に。

「ほらもう泣かないの」

嬉しそうに頬の緩みを制御できていない翼が、ゆっくりと私に顔を寄せる
唇をペロリと舐めた後、軽くキスしてちゅ、と音を響かせる

「そんなに泣かなくてもいいじゃん。たまにスキみせるとこ、可愛くてスキなんだけど?」

翼の言葉に私はまた騙されて、抵抗していた腕の力を抜く
変わりに翼にもたれ掛かってまた馬鹿みたいに甘えた声を出すんだ

「ばか」
「楓ちゃん馬鹿でゴメンナサイ」
「もっとちゅーして。可愛いって言って」

翼を見るために上を向けばまた視線が絡む
今度は目を瞑らないで怒ったように頬を膨らませれば、翼は嬉しそうにしてくれるんだ

「完璧じゃなくてもいつでも可愛い。そうやって甘えてくるの可愛い。すぐ許してくれるの可愛い。単純でサイコー」
「最後の要らないんだけど!」

つばさのばか!

翼の可愛いが嬉しくて、でもくすぐったくて、恥ずかしさを紛らわせるために目を瞑った
勿論今度は翼が長いキスをしてくれる
勿体ぶってゆっくり目を開くと私を見つめる翼の熱い視線とぶつかって

「あー、可愛い。俺の天使って感じ」

うるさい、ばか、翼なんて大好きだ!






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